アーサーさんのレベル上げ


「...めっちゃかわいい///けど、こいつに戦わせるとか...」
「もきゅ?」
「...ねえよ、それはねえよ」
さっそく呼びだしてはみたものの、かわいすぎる見た目の召喚獣と目を合わせて、今日何度目かのため息がアーサーの口から洩れた。
だって、ふわふわのもこもこがこちらにつぶらな瞳を向けていて。
ついでに、首なんて傾げているのだ。しかも、アーサーに対する信頼度100%の純粋な瞳で。
飛行能力はあるようだが、なんだか一生懸命とんでこちらの後ろをついてきているようだったので、不埒もの(というか、可愛いもの好き)にかどかわされる前に頭にのっけてみた。
...予想外に、これまた収まりが良い。
童顔眉毛とふわふわもこもこのトッピングで、周囲からは大変生温かい目線を向けられているのだがもちろん本人はそれに気付いているわけもなく。
今日も押し並べて、彼的には平和な一日ではある。

ところで。
アーサー・カークランドは駆け出しの冒険者である。
弟のように可愛がってきたアルフレッドが「冒険に出る!」と言い出して、当然のように「君も来るんだぞ!」と引っ張られて。
なし崩しに、準備をしてこの街に集合だと言われたその日時から...すでに三日。
いきなり約束すっぽかされたこちらとしては、一体どうしろとという心境である。
以前は魔術...というよりは、生まれた子供に妖精の祝福を授けたり、刺繍でまじないを縫いこんだり、そんな仕事で金を稼いでいたのだが。
それではさすがに戦闘には向かないからと、このたび召喚師に転向したのだ...が。
召喚師のパートナーたる召喚獣が、頭の上に乗っているこの子...である。
はっきり言って、強いか強くないか以前に、こんな可愛い生き物を戦わせるとかそんなこと、アーサーに出来るわけもない。
一応、自分自身も簡単な魔法は使えるが、やはりアーサーは何かしらを媒介した魔術の方と得意とするので、召喚した何かに魔力を込めるのが一番なのだけれども。
けれども呼び出せる召喚獣は今のところ一体だけ。他を召喚するためには、一旦この子を帰さなくてはいけない。
そして。
「きゅ?」
「ああああああ無理だ!」
ついでに言えば、可愛いもの大好きなアーサーが、こんな可愛い存在を手放せるわけもなかった。
つまり結局、戦って(可愛い可愛い)アルフレッド(ただしチートな怪力に限る)を守るためには、他の手立てを考えなくてはならなくなってしまったのだ。
「...どうせ、あいつのことだからどっかの街で寄り道してバーガーでも食ってんだろうけど...仕方ない、街の近くでレベル上げでもするか」
何か本末転倒な結論に至った次第で有った。


「...ええと、遅れたんだぞ」
「カレンダー見りゃわかんだろばかぁっ!!...べ、別に待ってなんかないんだからな。先にレベル上げしてたんだからな!」
「...君のその頭に乗ってるやたらファンシーなのは君の召喚獣かい」
「可愛いだろ!」
「きゅ?」
「...」
「あと、レベル上げたら、二匹同時召喚できるようになってな!」
「...なに、その微妙に見覚えのあるモチは」
「もちメリ?」
「...何で疑問形」
「もきゅ?」
「でもこいつキャベツしかたべねーぞ?」
「...どっちにしろ、二匹とも戦えそうもないのに、よく君レベル上げられたね」
「あ、そうそう。見ろこれ!」
「...この場合、俺は堅そうな杖だねって言っておけばいいのかい?」
「特注だ!中に鉛しこんであるから、本気で殴ったら頭蓋骨陥没するな。あと、特注グローブに特注のブーツ!こっちは金属繊維縫いこんであるから、蹴りも殴るのも任せとけ!」
「...君さぁ、召喚師じゃなくてよくない?」
「?こいつら可愛いだろ?」


あれ、空気が読めない眉毛と空気よめちゃうヒーローになった?
2010.8.8up