How do you think about “ortholog”?-“もし”から始まる平行進化-
Q.もし、一度だけ好きな場所にいけるとしたら、貴方はどこに行きたいですか?
Side L
「...誰ですか貴方は」
もっともといえばもっともな問いかけに、ルークはひくりと頬を引きつらせた。
ここでにっこりと微笑むような技量を、生憎と自分は有してはいない。目の前の人物ならあるいはやってのけたかもしれないが。
さらに悪条件なことに、自分の記憶の中では取りあえず愛想笑いを貼り付けていたはずの彼だが今目の前の『彼』はまったくの真顔、無表情。
非常に視線が突き刺さるのを感じるが、この場合正しいのは彼の態度のほうでルークではない。それくらいの判断は簡単に付くわけで。
「...ええと、お願いがあって」
ただ、にらまれたくらいであきらめられる願いならば最初から「こんなところ」なんかにきてはいない。来られるはずがない。
それでも視線を床に落としてしまうことだけは避けられなかったけれども、ルークはそのまま続けた。せめて声くらいは、震えないように祈りながら。
「俺に、フォミクリーを、教えてください」
...取りあえず、0.1秒で「嫌です」と答えが返ってきた。
Side J
「誰だよアンタ」
「アンタとは失礼ですねぇ、私は新しい家庭教師ですよ」
もっともというよりは若干嫌そうな問いかけに、しかし昔なじみをして厚顔と言わしめるジェイドの頬はにこりと笑みを(仲間内に言わせて見れば、うさんくさい)完璧に浮かべてみせた。
ここで初対面に対する礼儀のなさに頬を引きつらせるようなかわいらしい心を、生憎と自分は有していない。目の前の人物ならあるいはというか絶対やってくれただろうが。
さらに面白いことに、一家庭教師として挨拶に来たジェイドのえもいわれぬプレッシャーのようなものに若干目の前の少年のほうが顔が引きつっている。まだまだ若いといえるだろう。
警戒の視線が突き刺さるのを感じるが、この場合ある意味彼の態度は仕方ないかもしれない。毛を逆立てた子猫のようだ。それくらいの判断、付かないようでは狸どもの中で軍勤めなど不可能だ。
「...俺は家庭教師なんていらねーっつーの」
そんな、本気で嫌そうな顔をされたくらいではいそうですかと引き下がれるくらいなら、元々何もかもへの執着が人一倍薄かった自分が「こんな場所」にきてはいないだろう。
(いろんな意味で)鍛え甲斐のありそうな少年に、知らず笑みを濃くしながらジェイドは口を開いた。
「いえいえ安心してください...たーっぷり鍛えて差し上げますから♪」
...取りあえず、0.1秒で「いやだぁあああああっ!!」と叫びながら逃走された彼を捕まえるのが最初の課題であった。
Side L
『ルゥ』と名乗ったその少年は、見た目に反して強靭な意思としつこさでもっていつの間にかジェイドの隣に居座ることになった。文字通り何度たたき出されても、だ。(しまいには取次ぎの兵士に泣きつかれた「自分もう嫌です!必死すぎてかわいそうなので何とかしてください!」)
そもそも自分はフォミクリーを封印してきたはずなのだが、「よーし面白いなお前!今日からジェイドの副官やれ!よし、勅命だ!」という意味の分からない皇帝陛下のお達しによりジェイドの横に陣取ってからこちら、こちらの眼を盗んでは人の書いたフォミクリーの本を読み漁るものだから初心者がヘタな知識で暴走するよりはと結局弟子のような形になってしまった。
決して器用なわけでもないし、頭の回転はそこそこいいが、知識量があるわけでもない。
だが、根性だけは人の数倍持ち合わせていたようで、最初は思い切りきつくしてすぐに根を上げさせてやろうとしたスパルタのごときしごきにも耐え抜いてむしろ夜中に質問に来られるジェイドのほうが先に根を上げたほどであった。(ルゥは、やたらと体力を持ち合わせていたので...軍人であるジェイドを軽く凌駕するほどには)
キムラスカの貴色である朱色と緑を有する彼は、さらに不可解なことに単純な武器戦闘では将軍クラスでも太刀打ちできないほどの剣の腕を有し。基礎の型から名のある名家の出かとひそかに調べても該当するキムラスカ貴族にこの年頃の子息がいるという情報は全くない。
やたら子供のように食べ物の好き嫌いが激しく渋い顔でキノコと向き合い、若干というかかなり、一般常識に疎かったりする反面、ふとした瞬間にぞっとするほどに静かな表情を浮かべていたりもする...死に向かう殉教者のような。
やる気はとてもあるが、なれぬ仕事に失敗ももちろん多い彼を、どうしてもたたき出す気になれない自分に首をかしげたくもなるのだが。
「ジェイ...じゃない、カーティス中佐〜、書類もって来ました。あと陛下は捕まえてフリングスさんに引き渡してきました城下町でカレー食べてたので」
「...ご苦労様です。別にジェイド、で構いませんよルゥ。少し休憩していなさい、朝から働き通しでしょう」
ぴょこんと揺れる襟足の髪。すっかりマルクトの軍服も着なれたルゥが、ひょこりと顔を出して書類の束を机に置く。(ちなみにルゥは、軍部では『あの』カーティス中佐の補佐を勤め上げているという脅威の事実で持って一目置かれている。その剣の実力よりもむしろ)
「でも...俺馬鹿だから、少しでも勉強したい...ですから」
すぐにでもジェイドの執務室に取り付けた自分の机でフォミクリーの資料を読み漁りたそうにしているルゥの頭を(ジェイドのほうが身長は高い。ルゥの大きな緑の瞳は大抵ジェイドを見上げる形になる)仕方無しにジェイドはぽんぽんとたたいてやる。確かに努力もしない口先だけの人間は傍に置こうとも思えないが、この手の人間は自分でブレーキを有していないから厄介だ。執務室で突然倒れたことがすでに片手で足りなくなってくれば否が応でも学習してほしいものだが。
「目の下に隈を作って言う台詞ではありませんね...こちらも時間を割いて教えるのですから、作業効率が明らかに悪い生徒の相手をするほど暇ではありませんよ。猪突猛進に突っ走るのは結構ですが、がむしゃらが美徳だとは思わないように」
嗚呼ここで自分の腐れ縁たる主君がいたとしたら腹を抱えて笑うだろう。「お前が人の心配とはな!」...分かっている自分でもらしくないと鼻で笑う自分がいる。
だけど。
「うん...ありがとう!」
臆面もなく満面の好意を乗せた笑みでもってそんな感謝をぶら下げられれば、わずらわしさや彼の危険性、正体、思惑など瞬時に吹き飛ばすまでの威力を持つのだ。
...その感情が何であるのか、そのときはまだ自分で認めることはなかったけれども。
Side J
徹頭徹尾、初期は本当に最初から。だいっきらいだった。
そもそも、ルークにとって大抵の周りの大人は皆胡散臭くて仕方がない。確かにこちらは記憶もなく事実上十歳から赤ん坊をやり直した人間ではあるけれどもそれだって、自分に向けられる「仕事」のために培われたおべっかや笑顔など見分けることくらいは簡単に出来るのだ。
屋敷内で気に入っている人間など、庭師のペール、幼馴染のガイ、剣の師匠であるヴァン、そして母であるシュザンヌくらいだ。後は皆同じに見える。(父親は、とかく自分に無関心のように見えた。)執事服、メイド服、白い甲冑。きているものには違いはあれど、たかだかそれだけ。
それだけの、皆、同じ、種類の。
何度も何度もあてがわれた家庭教師たちは皆、過去の「ルーク・フォン・ファブレ」を「取り戻す」べくご高説をぶちまけるのが好きなようで、一週間と持たずに辞めるのもまた常。
だから、『ウィロウ』と名乗ったその男にもせいぜいその道をたどらせんと、色々画策にしたのだけれども。
笑顔のみでさらりと数重もの罠を解除され、あまつさえいつのまにか周到にもこちらが罠にかかるという本末転倒っぷり。
ガイとの共同戦線を張るも、やはり笑顔一つであっさりと返り討ちにされた。というか段々化け物のようにも思えてきたから不思議だ。っていうかアイツいくつだ一体。
埒が明かないので、「ではこうしましょう。最初にゲームをして、貴方が勝てばその日は一日遊んでよし。負けたらおとなしく授業を受けてください」という相手の提案を呑むことにしたのだが後でしまったと叫ぶことになる。とかくどんなゲームも、ルークはウィロウに勝てたためしがない。
だが、約束してしまった手前破るわけもいかず、仕方無しに授業を受けることになったのだが、しばらく受けていくうちにおや、と思うようになった。
面白いのだ。
そもそも、何を聞いても都合の悪いことやあまりにも常識過ぎることは教えてもらえなかったのが勉強のつまらなさの一端を担っていたわけで、しかも新しく覚えてもすでにそれが「当たり前」の部類に入っていると褒められることは絶対にない。それでどうして勉強の意欲が上がろうかいや上がらない。
だが、ウィロウの授業は違っていた。一体こんなの勉強なのかと聞きたくなるような小話から、キムラスカの王立研究所の人間でも不可能かもしれないほどの博識で持って語られるあくまで客観的な世界の仕組みは素直に聞き入れるものだった。
ルークに「当たり前」の知識がないことも馬鹿にすることもなく、出来るだけ噛み砕いて教えてくれる。知らないことを知っていくことは、知っているはずのことを思い出そうとすることよりもよほど楽しかった。
手品のように何もないところからこっそり槍を取り出して見せてくれたときには興奮した。「秘密ですよ」と胡散臭い笑みに人差し指を立てる様は正直どうかと思ったけれども、秘密を共有することはとてもワクワクとする。軟禁されているはずなのに、どうやって見張りをだまくらかしたのか城下町に繰り出すこともしょっちゅうで(あいつの言い方をまねれば「社会見学です」)、どんな些細なことでもたずねて答えが返ってこなかったためしがない。彼には父、クリムゾンも一目置いているらしく、武術も譜術もこなす彼に屋敷うちの人間からの評価はかなり高かった。
「なぁなぁウィル。どうしてお前いっつも色つきめがねかけてんの?」
大分前から気になっていたことを、ルークは問いかけてみた。
教科書を開いてまさに授業を始めようとしていた(今日も今日とて、ルークはゲームに負けたので。)ウィロウは、色眼鏡の向こうで少しばかり目を細めてから、いつもどおりのうさんくさい笑みを浮かべて答えてくる。
「さて、どうしてだと思いますか?」
...訂正、答えてない。
大抵の疑問に答えてくれるウィロウだが、こと自らへの質問にはほとんど答えてくれない。
いつも、あの胡散臭い年齢不詳の笑みを浮かべて「どうだと思いますか?」と疑問を返してくる。...分からないから聞いているというのに。
襟足ほどでざっくりと切られた琥珀の髪はまっすぐで、ガイの蜂蜜の髪ともヴァンのマロンペーストの髪ともまた違う。日に当たると透けて綺麗なので結構好きだったりもする。
ふてくされたように頬を膨らませて、行儀悪く椅子に胡坐をかいて上目遣いに睨むルークに、すがすがしいまでのやはり胡散臭い笑みを浮かべてウィロウは言った。
「生まれつき、目が光に弱いんですよ」
「え?!そうなのか...悪い」
聞いてはいけないことだったかと、しゅんと反省して(前に、ガイにうっかり両親の話を聞こうとしてものすごく落ち込ませてしまったことがあったから)思いっきり小さな声でぽそりと謝ると(「例え誰が相手であろうと、自分の非が認められないような人間は子供ですよv」とことあるごと笑顔で言われてきたので)、すぐに
「嘘ですv」
とハートマークつきで返された。もう嫌だこいつなんか信じない。
本格的にふてくされ始めたルークに、ウィロウは微笑を苦笑に変えて、其れは冗談ですけど、と続ける。
「そうですね...もう少し先、時が来たらお教えするとお約束しますよ」
「ほんと、か?」
「本当です。...さぁて、そろそろおしゃべりはやめにして授業を始めますよ。早く終らせて、格闘技の訓練も見て欲しかったのでしょう?」
「!やった!今日こそ負けねーからな!ウィル!」
取りあえず認めておこう。彼が来る前よりも世界は楽しい。
Side all
「...」
「...」
色眼鏡を押さえたまま硬直した家庭教師と。
口をぽかんと開けた、緑の瞳と襟足までの黒髪の若い軍人。
彼らはとりあえず、互いを認めて硬直していた。
きちんとした教育のおかげで特に問題を起こさなかったにもかかわらず、男二人女一人というだけで漆黒の翼に勘違いされて捕まったルーク一行と、そして導師をキムラスカに送り届けるべく旅を続けていたジェイド一行。
彼らが出会うことは平行世界においても必然にして確定。
...確かにそうだ、そうだったのだが。
たった一つのお互いの誤算は...『お互い』の存在であった。
「んだよウィル、そいつ知ってんのか?」
微妙に目の前のうさんくさい笑みを浮かべた軍人が怖いのか、こっそりなのか無意識なのかウィロウの後ろに微妙に隠れている朱色の長い髪の少年...ルークが自分の家庭教師に問うた。
「どうしましたルゥ」
目の前にいる、色眼鏡をかけたあからさまに怪しい男を警戒しながら、まるで泣きそうな顔でほうけている自分の副官に、無意識の労りを乗せてジェイドが問うた。
もちろん全くもって状況を理解していないティアと、そしてイオンは何があったのかと目を瞬かせながら状況を見守るのみ。
先に、硬直が解けたのは『ウィロウ』のほうだった。
メガネのブリッジに指を当て、くつくつとのどで笑い出す。
それにつられたように、『ルゥ』も目の端の涙をぬぐいながら笑い出した。
呆然とこちらを見ているそれぞれのパートナーには悪いが、今だけは許して欲しい。
そして。
ぴたりと笑いを止めて、ルゥが正式なマルクト軍式の礼を取る。
「初めまして」
胸に手を当てて、ウィロウが応える。
「初めまして」
分岐点から先の、経由地点で。(「初めまして」をさようならにはもうしない。)
離すものか!(隣にあるべき手を。)
短編仕様ということで、若干というかかなりはしょってしまいました。
意味が分からん!設定よこせ!という方がいらっしゃいましたらメルフォよりプッシュください。補足とかは載せることは出来ますので。
琉華様のみのお持ち帰りでお願いします。あ、もちろん受け取り拒否は可、ですので...ものっそ楽しんで書いてごめんなさい。むしろ自分が一番楽しかった!!(ダメ人間!)
タイトルのorthologの本来の意味と使い方は必ずしも一致していません。分からない方はうぃきで調べてみましょう。そして深く突っ込むのは禁止です(笑)
2008.4.14up
以下、蛇足というか設定?
↓
・ルゥ(逆行ルーク):
取り合えず、アッシュもルークも共存できる陽だまりを作る為にフォミクリーを研究しようと無理やりジェイドに弟子入り。本編開始時点で(肉体年齢)24歳です。
あからさま過ぎるので髪の毛は黒に染めています(ジェイドの指示。)。よき師匠であり、尊敬できる(いろんな意味で。例えば暴走陛下のストッパーとか)上司であるジェイドの傍に立っているのが自分だというのが誇りだったりする。
うっかりジェイドのことを癖で「ジェイド」と呼びそうになって「じぇい...カーティス大佐」とかやりまくって周囲にほんわかされているといいですね。(願望か)
上層部のみならずいろんな方々に可愛がられています。いろんな意味で。(一部分かりにくい愛情表現あり)
若干年齢的に落ち着いてきたので、性格は大分控えめ。
・ウィロウ(逆行ジェイド):
上のルゥさんと違って、ちゃんと身元も偽名もがっつりと仕込んでから堂々とファブレ家の家庭教師になった強者。(ちなみにルゥは、呼ばれても反応できないので中途半端な偽名になっちゃったんですよはい)自分の罪の固まりであるルークを見ない振りするのではなくて、教えるべきを教えて行こうと彼にしてはかなりポジティブシンキングかつアクティブな行動でまんまとワンコ(ルーク)を手なずけた確信犯。
でも、うっかりわんこにほだされているというのは周囲の意見。
ウィロウは、色鉛筆の色から選びました。淡くて綺麗な色です。長髪ルークさんだけ、縮めてウィルと呼んでいますが、うっかりガイとかが呼ぼうものなら絶対零度の微笑が待っています。本編開始時点で年齢は37歳。(見た目は永遠の二十代)オプション短髪色眼鏡(サングラスほどではない、色つきだと思ってください)
・ルーク(長髪):
基本的に長髪ルーク。わがままで純真で知りたがりな可愛い子です。
ただし、家庭教師ウィロウの愛の鞭で、大分一般常識を身に付けております。(海とか、みたことのないものについてはそれはもう目を輝かせますけれども)多少なら回復術も使えるセブンスフォニマー。ガイはちゃんとマブダチですよ。
二年前に家庭教師としてウィロウがきてから、「ウィルウィル」とヒヨコのように後をついてまわる七歳児。特技は剣術です。
そんなに世界をつまらないとは思っていないし、ヴァンは好きだけど依存するほどではありません。
・ジェイド:
マルクトの若き大佐。いつのまにかルゥに根負けしてフォミクリー理論講義をしてあげてしまっている苦労人。脱走癖のある陛下を捕まえる役目はデフォルトでこの人だったけれども、最近手元にやってきたルゥのおかげで仕事が減って楽になったとは思っている。が、その分教えることが多くなったのでどっちもどっちだと思っている。
七年かけて、うっかり天然わんこに転んだ(無自覚無意識)人でもあったり。
普段「ちょろちょろと若干うっとうしい」とか言っておきながら、陛下にルゥを取られそうになると巧妙に邪魔するあたりたちが悪い無自覚である。