「ったく、なんでわざわざこんな夜中に...ア「ブウサギレッドと呼べ、ブウサギグリーン」
「じゃあブウサギレッド。...ブウサギピンク、普通に寝てるんだけど」
「...昼寝しとけって言ったのになぁ...」
「たたき起こす?」
「いや、駄目だかわいそうだろ。...まあ、作戦内容は明日伝えればいいわけだし」
「...アンタさ、いっつも思うけどリーダーに甘くない?」
「ん?いやいやちゃんとグリーンにも甘いぞ?というか俺が辛いのは一部限定」
「...まぁいいや。でなにさ、今更この格好を復活させたそのこころは?」
「...普段の俺たちは、あくまで『ザ・髭引き抜き隊』...つまりだ」
「つまり?」
「髭しか引き抜けない!!!」

取りあえず、ランプ一つの暗い部屋の中に、スパコーンという爽快な音が響き渡った。



レッツ宝探し!! 〜イッツアサバイバルバトル!〜



「どうしましたか閣下、今日はご気分がよろしいようですね」
リグレットの言葉に、顔が緩んでいたか、とオラクルの若き総長はきりりと表情を引き締めた。
だが、しばらくたつとまた、明らかに機嫌のよさそうなそれに戻ってしまう。
別段、彼の機嫌がいいことは悪いことではないのだけれども、その原因がわかっていないリグレットとしては、単純に首を傾げざるを得ないわけである。
「いやなに、今朝アッシュたちがな、日ごろの礼をこめてとこの髪ゴムをプレゼントしてくれたのだよ」
普段から長い髪を止めている総長のそれが、確かにいつものではない紅いそれに変わっていたのを確認して、リグレットは少しきりりとした口元をほころばせた。
「それは良かったですね。...アッシュたちも、もう少しおとなしくなってくれればいいのですけれど」
(ちなみに、まだ何も始まっていない、平和な朝の一こまである。)
もちろん誰も、その髪ゴムが悪魔の契約印であることを知らない...。



『ってわけで、第一回、宝探しを行いまーす』
いきなり、何故かブウサギの着ぐるみ(ブチは赤)を着たアッシュが、拡声音機関を用いて宣言をしてきたものだから、ちょうど昼時で食事をしていたほぼ全員が手を止めてきょとんとそちらを見た。
何が、というわけなのか。
意味が分からないのではあるが、何せいつものことであるので耐性がある程度できてしまっている団員達にとってはそこまで驚くことでもない。
さらには、特務師団に在籍している人員にとっては最早師団長のそんな暴走発言あんど行動はいつものことなので、むしろ『おい、今日の師団長当番誰だっけ』『うぇ、俺だよぉ。なぁなぁ、今度飯おごるから片付け手伝ってくれよぉ』『...っち、しゃーねーな今度外の飯屋だな』『サンキュー!!』なんて会話がぼそぼそと聞こえてくる。すでに、片付け当番まで出来ている様子だ。
其れであるのに、特務師団の脱落率はものすごく低い。回転率も低い。
新人が入る率が低い=誰も抜けたがらないということであるからして、結局のところアッシュは団員に好かれている(というか、可愛がられている)わけだ。
ざわざわとしだした食堂に、もじもじと出てきた小さなブウサギの着ぐるみ(ブチがピンク)がアッシュから拡声器を受け取ると、蚊の鳴くような声で何かぼそぼそっと言ったけれども、何せ蚊の泣くような声だからして聞こえるわけもない。
思わず皆静かにして何とか聞こうとしたのだけれども、ちょっと難しかったようだ。
周囲が静まり返ったことで、緊張したのだろうか最早ブウサギピンクは涙目である。
「ほらアリ...じゃないリーダー!!ちゃんと話しなよ、話進まないじゃないか」
「シン...じゃないブウサギグリーン!!リーダーあんまり苛めんなよー」
むしろ、拡声器を使っていない二人の声のほうが聞こえるところがミソ。
微妙に、年齢層の高い組の顔がゆるんでいるのは、もじもじとしているブウサギピンクに娘を重ねているからだろうか。毎度暴走する師団長も師団長だが、結構な割合で団員もイロイロなかなかのものであることはこの場合周知の事実であったりもする。
まぁ、結局のところいい感じにゆるいオラクル騎士団であった。
『え、えっと。今回のおたから、は、これ、です』
ブウサギの手で、掲げて見せたそれは、持っている人間の身長が低いため後ろの人間に微妙に見づらいというのはこの際ご愛嬌。
どれどれ、と皆が首を伸ばせばそこには...
「け、ケテルブルグ貴族御用達スパの会員パス?!」
怒号のような声に、びくりとブウサギピンクが泣きそうに顔をゆがめ、さりげなくレッドとグリーンに睨まれた面々が口をつぐんだ。...が、騎士団員とはいえ結構薄給な彼らにとってはそんなもの、雲の上どころか大気圏つきぬけて宇宙空間に存在するものだ。
それが、なんとケテルブルグホテルの宿泊券付きペアチケットで存在しているのだ。かわいらしいブウサギピンクの手の中に。
途端に着ぐるみに後光がさして見えるから人間不思議なものである。
「な、何でそんなものがここに?!」
「あー...もらった」
レッドの適当な答え。誰に?!という突っ込みは辛うじて全員の口の中に飲み込まれた。(なぜなら、せっかくしゃべっていたのに中断されてしまったピンクの瞳が泣きそうに歪み始めていたので。)
『えっと、こんかいは、総長が、こんな髪ゴムを、しています。なので、それを、最初に取れた人が、しょうひんを、もらえます』
たどたどしい説明だが、分かりやすいほどに単純なルールのため、真剣に聞き入っている騎士団員達はうんうんと頷いて話を促す。
アリ...じゃない、ブウサギピンクはほっとしたように説明を続けた。
『ルールは、簡単、です。あらゆるしゅだんを、使っていいです。終了は、今日の、夕方、です』
「おーっし、リーダーえらいぞvvよく出来たな」
「アリエッタ、えらいですか?」
「うん、えらいえらい」
ぐりぐりと頭をなでられてうれしそうなブウサギピンクからひょいと拡声器を奪ったブウサギグリーンが、ついでというように説明を付け足す。
『あ、ついでに。今からだから』
うおおおおおおおおおおっ!!!!!
怒号があがり、食べかけの皿を放置して走り出そうとする団員達。
しかし。
「食べ物を粗末にするならこれから食事抜き!!」
なる、食堂の守り神たちの怒号により、開始は昼食後と相成ったのだった。


一応、教会の廊下には「廊下は静かに!」という張り紙がなされているのだけれども、今現在トップに立っている総長自ら全力疾走をしているのであまり意味はないと思われる。
(またアッシュかぁあああっ!!!)
心の中でこの原因を作り上げた心当たりに向かって絶叫しているのだけれども、ほかに犯人がいるはずもないことはそろそろ学習したほうがいいのではないかと、彼と一緒に走っている副官は微妙に思ってはいたのだが口には出さないでおく。
昼ごはんを過ぎたあたりから、やけに何人もの団員の視線を感じる気はしていたのだが、段々その人数が増え、あまつさえ「総長!髪が崩れています!!」とか、「ちょっと髪をブラッシングさせてください!!」とか意味の分からない言葉とともに若干血走った目でブラシをかかえてやってくるむつけき団員達にさすがの総長も身の危険を感じ始めた。
腐っても総長、さすがに平団員たちが何人束になろうとも遅れを取るつもりはないが、何か妙な胸騒ぎが彼の足を動かしているのだ。
...それは言いかえれば、アッシュが何かやらかして、この程度で済むわけがないというもはや経験則に近い直感であるのだが。

と。

何故か、進路方向中央に見慣れた緑の髪の少年。
仮面をつけてはいない、つまり、その白い服からも彼が導師であることが分かる。
オリジナルと同じセブンスフォニムの素養は持っているものの、いかんせんそのせいで体力の少ない彼に、戦うことが仕事の半分を占めるような軍人が直撃しては無事に済むわけはない。
とはいえ、平団員たちとてそれは同じであり、護るべき導師の元にさすがに駆け寄るような不届き者はいないだろう。
つまり、導師の傍は安全ということになる。
立ち止まり、取りあえず一息ついたヴァンは、ニコニコとしている導師に目をやった。
何故か、追いかけてきている団員全員が示し合わせたように持っている(つまりは、皆考えていることは一緒だということなのだが)ブラシを、当然のごとく彼は所持していない。
じりじりとそれでもにじり寄ってくる団員達の目の色が若干怖いことになってきていてアレだが、今はいかに導師をスルーして逃げるかの方が先決である。
頭の中で、逃走ルートをシミュレートし始めたヴァンの後ろに若干の隙をみてか、さらに勇気ある何名かがにじり寄っているのだがまぁそこは些細なことなのでおいておこう。
「ヴァン、ちょっとかがんでください」
「は?」
「髪に、ごみがついていますよ」
人畜無害の笑みで言われてしまえば、形式上位が上である導師の言葉に従わないわけにも行かない。
軽く膝をついたヴァンの髪に、そっとイオンの白魚の指が触れた。

と。

「あ」

ぶちぶちぶちぃっ

情け容赦なさ過ぎるにも程があるその効果音に、我先にと手を伸ばしかけていた団員達がさすがに硬直した。
何だろう、今、自分たちは何を見ているのだろう。
笑顔、導師。
よし、ここまではいい、ここまでは結びつく。
むしろ、いつものことだ。いっつなちゅらる。
だが、どうみてもその華奢な白い手には、マロンペーストの毛束が握られており。
なおかつそれが、輝かんばかりの笑顔とセットであると、人間誰しも硬直せざるを得ないのではないだろうか。
「あ、すみませんヴァン、ついうっかり手元が滑りました」
滑りましたってアンタ、滑ったにしてはやけにがっしりと握られてるんですけどその毛束。
っていうか、どんな握力してますか実はかなり鍛えていらっしゃいましたかあれ導師って病弱じゃなかったっけかあれれ?
なんて、団員達に漏れなく波紋を呼び込んでいる当の本人は、いたって静かに微笑んでいるだけだ。
「では改めて失礼しますね...えい」
今度こそ握られた手には、紅い髪ゴム。
それを確認して、導師は最初に掴んでしまった毛束を無造作に床に放った。
これでもかというほどに、気持ちよく、あっさりと。
一方のヴァンといえば、あまりのショックで若干涙目、かつ乙女すわりになっているあたり微妙にキモい。
さすがに彼を哀れんだ副官が、そっと頭にタオルをかぶせたのだけれども、最早そのタオルにさえ哀愁が漂っているような気がしないでもない。

「勝者、導師イオーン!!」

後からのんびりとやってきてゲームの終わりを告げるアッシュの晴れ晴れとした声と、聖人君子のごとく微笑む導師のコンビに、騎士団員達はさすがに総長へ若干の哀れみを感じたとか感じないとか。






某絵茶にて、ダーリンにリクエストいただきましたネタです(笑)
想像以上に総長がかわいそうになった罠。
そして、イオン様をどこまで黒くするつもりですか私。
ブウサギ戦隊を出したのはただの趣味で、特に理由はありません。あえて言えば、アリエッタを目立たせたかった(笑)
ダーリンのみお持ち帰りはご自由にvv(もちろん突っ返しもおっけい)
2008.4.27up