俺たちちみっこ探検隊 前編
「うぉぉぉぉっ!!ディストすげー!!ちっちぇえ俺!」
珍しく、素直にほめてもらえた自称天才科学者(ついでに実際もそうなのに、どうしてか他称はあまり芳しくない)は顔を赤くしてぽりぽりと頬をかいた。
普段あれだけ偉そうに胸を張って無駄に自慢っぽくねちねちと絡んでくるくせに、本質はとんだ照れ屋なので、素直にほめられると実は割と大人しい部類に入る。
でもまぁ、いかんせん彼なのでめったに誰も素直にほめることはない。そこが彼の残念すぎるところでもあり、ついでに言えば愛すべき性質でもあると思われるのだが。
有能で優秀な人が、必ずしもトップに立つわけではないという典型例だろうか。
所謂カリスマの数値が著しく(愛すべき方向に)マイナスをぶっちぎるいろんな意味で残念な人である故に、今日も今日とて元気に不憫である。
現在ここは彼の仕事場でもあり、フォミクリー研究場所でもあるオラクルの地下施設である。
そして、机の上、せいぜいが女性の手ほどの大きさしかないミニチュアな特務師団長に手放しでほめられているという不可思議な状況が現在に有る。
部屋の中央には何やら大がかりな音機関装置があり、ちょうど人が一人入れるスペースがある箱型をしていた。
音素の高密度集合体であるエネルギー装置を装着されたそれは、非常に複雑に絡み合うコードやら何やらで回路を繋ぎ合わされおそらく一般人にはいじることもできないだろう。
本来フォミクリーの為に裂かれているはずの研究予算が実に無駄な方向に発散されている気がしないでもないが、この研究施設に足を踏み入れると大抵ディストのマシンガン自分自慢トークが一時間は待っているのでヴァンですら最低限しか近寄らない。...というわけで、今日も今日とて地下のラボは高度な無駄で占拠なうである。
さて、話を軌道に戻そう。
色々物理的な法則とか...主に質量保存の法則を無視して、おそらくは小人作成装置とでもいうのだろうそれを作動させて現在のミニチュア特務師団長が出来上がっていることは想像に難くない。
事実それが現実であり、アリエッタの絵本を借りて読んだアッシュがディストに「ちっちゃくなってみたい!」と頼んだのがつい一週間ほど前の話で。
なんだかんだと本当に装置を作り上げてしまったディストにより、現状ちっちゃい特務師団長は御満悦なのである。
「見てくださいですのー、ご主人様のこと、僕おんぶができるですのー♪」
普段は逆に主人の頭もしくは肩の上に乗っているミュウが、アッシュを載せてぴょんこぴょんこととび跳ねる。
上に乗っている本人はまるでロデオのように悲鳴を上げているのだが、いかんせん浮かれているチーグルにはその悲鳴は届いていないらしい。
見た目には大変かわいらしいかもしれないが、自分より体積比として数倍以上の大きさの動物が遠慮なしに自分を乗っけて跳ねまわっている姿を想像してほしい...ちゃんとつかまっていなければ、下手すれば吹っ飛ばされてスプラッタコースが待っているかもしれない。
がっしりと文字通りの小さな手で水色の毛を掴むのが精いっぱいのアッシュに、けれどもミュウは全く気付いた様子も見せていない。
とりあえずディストはアッシュが完全に乗り物酔い(?)する前に、ひょいとチーグルの頭からこころなしぐったりとしたアッシュをつまみ上げた。
「...大丈夫ですか?」
「...み、水」
あんまり大丈夫でもないようだ。
とりあえずため息をつきながら、ディストはティースプーンに水をすくって口元に近づけてやるのであった。
「あれ?」
シンクは、いつも通りのシエスタの為にノックなしにアッシュの部屋に入って、目的の赤毛がいないことに眉をひそめていた。
相当のことがない限り、このシエスタの時間というものは変更されたことはない。さすがに遠征などでダアトを離れている場合はその限りではないが、いくらリグレットやラルゴに、食べてすぐ寝るのは豚になると眉をひそめられようとも破られたことのない風習である。
大体、もしも忙しくて昼寝ができないようであれば事前に言ってくるはずなのだ。
つまり...そうでないということは、何かしらイレギュラーが起きて、時間を拘束されてしまっているということ。
「...誰だか知らないけど勝手なことしてくれじゃないか」
無自覚ツンデレであるところのシンクは、実に本当に、ひとかけらの自覚もなく、非常にアッシュに関係するもろもろに対して猫の額並みの心の広さしか持っていなかった。
ポイントは彼がまったくもってそれを自覚していない点ではあるのだが、主に同じ顔をしてにこにことしている導師あたりは気付いているかもしれない。
とりあえず自覚のないままに、明らかに機嫌を急降下させていくシンクである。
さて、このいらつきを一体誰にぶつけてやろうか。
非常に険呑かつ猫科の猛獣のように細められた目には明らかな殺気が含まれ始めていたのだが、この場合おそらくは執務室で髭あたりがくしゃみをしているころだろうか。
ほとんどの場合八つ当たりの対象は約二名から三名程度なので、すぐさま襲撃シュミレーションがシンクの頭の中で繰り広げられているのだがもちろん襲撃される側はそんな恐ろしい頭の中身は幸か不幸か見えてはいない。
さて、踵を返してどのターゲットを狙おうかとシンクが妙に冷めきった頭で考えていたところで、後ろから聞きなれた(けれどもなんだか少し高く感じる)声が自分を呼びとめるのを聞いた。
「シンクっ!!こっちこっち!」
「...アッシュ、どこに隠れてるのさ。まさかベッドの下?」
被害者になりかけた約三名あたりにとっては幸福なことに、シンクの殺気はあっという間に引っ込んだ。
今は、部屋のどこかにいるらしい相方を探すことに意識を持っていかれているらしく、きょろきょろとまだ幼い瞳を動かして声の主を探す。
けれども、どう見ても部屋の中に自分と同程度もしくはほんの少し大きいだけのあの体が隠れているようなスペースはない。
けれども、確かに声は聞こえてきた。
もう一度、部屋の中に視線を走らせてみる。すると。
「おーい、ここだってばここ!!机の上っ!!」
ようやっと、『それ』を見つけて、とりあえずシンクは脊髄反射で『それ』を掴み上げてしまった。
「...縮んだね随分」
まずはそれしか言えない。何せ、自分の手にすっぽりとうずまってしまうくらいの大きさしかないのだから。
長い服の裾をつまんでそう言えば、手の中の小さい人のほっぺたがぷくりと膨らむ。
なんというか、やはりこういうところ、所々幼いと思わせる。
シンクにとって、それは嫌なものではないのだけれども。
つまるところ手の中には、掌サイズまで縮んだアッシュの姿があったのであった。
うお、短い...
でも、全部あわせちゃうと長くなってしまうので切りの良いところで切ります。
サイト消える前にはちゃんと終わらせますですよ。
2010/10/11