俺たちちみっこ探検隊 後編
「・・・。」
というわけで、結局2対1で勝てなかったシンクは、現在元の自分の拳程度のサイズに縮んで、なぜかネズミの背中にしがみついていた。
否、もちろん六神将のツートップを張っているほどなのだから、たとえ初めての経験であっても「しがみつく」なんて無様な真似は晒していようはずもない。
あくまで、比喩的な表現であることを、彼の名誉の為にも先に主張しておくこととしよう。
まぁ、それはおいておいて。
現在、いい笑顔で導師が「是非、あのヒキガ・・・モースの部屋に忍び込んで一緒にいたずらがしてみたいです」などとのたまったおかげで、三人は途中で遭遇したネズミの親子の背中を借りてオラクルの天井裏を移動している真っ最中である。
途中までブタザ・・・ミュウの背中に乗って移動していたのだが、遠慮なくはねてくれる彼の乗り心地はマイナスランクといえた。(ついでに言えば、現在乗せてもらっているネズミの親子の乗り心地は非常によい。・・・ふくざつなことではあるが)
それでもつつがなく(?)移動を終えて、以前アッシュが見つけていた抜け穴から三人で中に入り込み(サイズ的に、ミュウは留守番と相成った)、途中で遭遇したネズミとイオンが交渉した結果(なぜネズミと言葉が通じるのか・・・それをつっこんではいけな気がしてしまい、シンクはそっとつっこみを飲み下した。)、移動手段も確保してなかなかに快適な旅ではある。・・・埃っぽくさえなければ。
先ほど頭からつっこんでしまった為にまだ髪の毛に張り付いてる蜘蛛の巣をとりながら、シンクはため息しきりである。
と。
先頭を走っていたイオンの乗ったネズミがストップし、ちゅうちゅうと鳴いた。
「あ、ついたみたいですね。この下がヒキガ・・・モースの部屋のようです」
いっそ、ヒキガエルと言い切ってやった方が優しさではないだろうか。
何度も言いかけたその言葉をぐいと飲み込んで渋面であるシンクの表情は、幸か不幸か暗い天井裏と、ついでにかぶっている仮面のせいで見えることはない。
後ろから聞こえるアッシュの声と言えば、「おー」という何とも間の抜けたもので、まるでこれがピクニックかなにかと錯覚させてくれる。
いい笑顔の下に、何か見逃せない黒い何かをのぞかせている導師は、果てさて本当に代替え品のレプリカで、自分とは異なる成功作なのだと・・・言い切るにはどうにも腑に落ちないことが多々ある気がしてならない。
・・・とりあえず、この間リグレットが嬉々としてヴァンの部屋に持っていったはずの果てしなく謎のどろどろした液体・・・のような、本人曰く「チョコムース」をどうして導師が持っているのか。そして、どうしてそれを懐からのぞかせているのか、誰か解説を頼みたい気持ちになる。
というか、この導師一応モースの傀儡というか、お飾りというか・・・とにかくそんな設定ではなかっただろうか。
しかし見た目の穏やかさはともかくとして、最近とみに、そんな生やさしいものではないと言うか、正真正銘ダアトの最高権力者に見えて仕方ない。
「おし、今日はイオンが参戦してるけど、まぁいつもと作戦は一緒な」
ネズミ親子に律儀に礼を言い、のんきにこれからの行動計画など立て始めたアッシュには、とりあえずこの後一発をお見舞いすることがシンクの心の中で確定した。
さて、その先は非常にちまっこいスケールで、壮大な冒険が行われたことを記しておこう。
初っぱなから着地のショック緩和に超振動をぶちかました某赤毛がいたり、明らかにモースの私物であろう偉く高価そうな調度品を、「着服は良くありませんよね」の一言とダアト式譜術で木っ端みじんに粉砕した某緑っ子がいたり、用意しておいた鉤針つきの凧糸を使って机によじ登ったり、水差しや茶菓子、ティーポットに至るまでありとあらゆる箇所に自称「チョコムース」を混入させたりとなかなかに大仕事であった。
何せ普段であれば特に難しくもない行動も、小さいままではたとえばティーポットのふたを開けることすら難しい。
スプーンを使っててこの原理を利用したり、一人がもう一人を肩車したりと、なかなかアスレチックのようで楽しく、なんだかんだとシンクも最後の方は楽しんでいたことは否定できない。
最近、とみに外からの進入に警戒し、厳重な封印(高々私室の警備に、譜陣を張らされたフォニマーにはかわいそうな話だ)が施されているモースの部屋だが、しかしてまさか天井裏から進入されるとは思ってもみないだろう(否、ふつう誰も思わないだろう)。
痕跡もほとんど残さないのだから(何せ、足跡も小さなものだから、せいぜいネズミが入り込んだくらいにしか認識されない)まず間違いなく茶もしくは茶菓子は確実に彼の口に入るに違いない。
警戒して青い顔でちろりとなめただけであのヴァンを卒倒させたのだから(ヴァンがターゲットにならなかったのにはここが理由である。・・・つまりは、まだ医務室で目を覚ましてないのだ)、たとえ一滴であろうとも、遺憾なくその効果を発揮してくれるだろう。
そのほか、ペンの内側に蜂の尾針、イスの背もたれに接着剤など、最近では珍しいフルコースに走り回った三人は、ようやっと満足して現在はディストの私室である。
元の大きさに戻って、やっぱりこのでかさのほうがいろいろちょうどいいよなぁなんて、ディストの耳に入ったら大わめきされそうな(生憎と、ディストは珍しく自分の部屋を三人も訪ねてくれる人がいると言うことに浮かれて聞こえていないらしい)せりふをぺろりと吐いたアッシュは、あー腹減ったなぁなんてすでに被害者Mのことなど思考の外に追い出してしまったらしい。
「時間もちょうどいいから、そろそろ食堂に飯食いに行こうぜー。イオンも来るか?」
「あ、僕は今日はアニスがオムライスを作ってくれるそうなので・・・でも、今度は是非」
「・・・やめときなよ。導師が食堂なんかでご飯食べてたら、確実にトリトハイムが胃炎でぶっ倒れるよ」
ついでに言えば、つい一時間前にあれほどたらふくにケーキを食べていたくせに、もう腹がすいたと訴える赤毛の胃袋は、四次元空間疑惑が浮上している。
(・・・この場合、食べたもののサイズが変わらないので、相対的に大きくなった時に胃袋に残るケーキのサイズが小さくなったという説明は不適当である。そうでなければ、ケーキを食べてから小さくなったイオンとシンクは、小さくなった時点でいろいろまずいことになっていただろうから。)
今日は楽しかったですねー。そうだなー。なんて、うふふあははと笑う二人は、しかして一番率先してモースの部屋に仕込みをした先導だ。
・・・こんなのが、最高指導者と最高実力者であるローレライ教団って・・・。
微妙にそう思わないでもなかったが、まぁたとえそうでも今日も今日とて、一部をのぞいて平和を謳歌しているダアトをみれば、大した問題でもないのだろう。
ちなみに、モース医務室に運び込まれたのは、それから一時間ほどあとの話であり。
そのころにはすっぱりさっぱりと自分のやったいたずらのことを忘れてご飯を食べていたシンクとアッシュが、顔を見合わせて首を傾げていたことだけは、最後に報告しておこう。
お待たせしましたー。
引っ越し前に終わらせるとか言っていて、引っ越しのごたごたで下書きを紛失したので、やっと書き直しました。
イオン様はそろそろ人外な気がしないでもないです。
あと、ぴょこぴょこしてるミュウは、実のところ激しく乗り心地が悪そうだという妄想でした。
2010/11/23up