ブランデーに紅茶を三滴


オラクル、六神将。

そんな組織が結成された時点、ふとルークは疑問を覚えた。
六。
これは、六人で構成されているという意味だ。問題ない。
神将。
...引きこもりメガネと肝っ玉母さんと見た目12歳児とへんてこ仮面と自分と、最後はまぁましだろう巨漢。
いいのか、そんな大層な名前をつけて。いっそ、六人の面白軍団とかにしたほうが良くないだろうか。名は体を現す。どう考えても今自分の隣でお昼寝している緑の髪の少年とピンクの髪の少女がそれにそぐうとは思えないのだが。
見た目で、その名前にかなうのはおそらくはラルゴくらいのものだろう。
その見た目で、いそいそとルークへのぬいぐるみやかわいらしいひざ掛け(冬場対策)やらマフラーやらミトンの手袋やらを購入しに街に降りて行くのだから、多分に迷惑だろうけれども色々と。とりあえず、自分だったらこんな巨漢店に入って着た時点で強盗と間違えそうだ。
それに加えて、今日も今日とてシンクとかシンクとかシンクとかルークのちょっとした遊び心にだまされて作ったばかりの譜業を壊されたディストがさめざめと中庭の隅で泣いているのが見える。
ただでさえ、構成する半分が年端も行かぬ子供なのに。
...本当に、ほかに人員がいなかったのか髭。
ヴァンに拉致されてここにつれてこられたときからこの方、数多の手段でもって髭に妨害の数々を繰り広げてきた自分をその人員に加えなければならなかったというのは、かなり致命的ではあるまいか。
最近、間違いなくその髭への嫌がらせの四割は同志によるものだけれども。
その同志との出会いはこうだ。
ザレッホ火山の火口に落とされそうになっていたのをさくっと救出、勧誘ごとには洗剤がつき物だというよくわからないガイの教訓に従い、柔軟剤入りの洗剤と共に『ザ・髭引き抜き隊』入隊を進めたところ、即座に洗剤を叩き落された。
おい、ガイ。お前全然効き目ないぞ、コレ。心の中でルークがぶーたれたかどうかは定かではないが。
...ある意味では、その方法は間違ってはいない。
毎日毎日さまざまな種類の景品を届け続けたルーク。(一例としては、清涼飲料水、ティッシュなどなど)
雨にも負けず、風にも負けず、冬にも、髭のウザさにも負けずにひたすら同志の部屋の扉の外で念仏のごとく入れ入れと繰り返していたら、あっさり陥落したのだ。
なるほど、アニスの言ってた「人に頼むときはあきらめちゃだめだヨー☆いーい?基本は押せ押せ!」とはコレだったのか。なるほどなるほど。
また一つ、少年の無垢な心に間違った教訓が刻まれる。
まぁ、結局のところ一応多分少しはきっとオラクルの中で随一の切れ者たちの集まる六神将(一部、包丁で自分の手を切りかねない者含む)は、そろそろ眠りの国に飛び立ちそうな少年達を加えて先日結成されたのだった。


さて、場所を変えて。
ここがどこかと聞かれれば、ルークは即座に答えるだろう。
マルクト帝国の首都、グランコクマ。
どこの店のカレーがうまいかと聞かれれば、ジェイドに聞いてくれと答えてくれるかもしれないが、まぁそんなものはこの際右側においておいて熟成させよう。多分、三日後くらいが美味しいはず。
後でお母さん(リグレット)に怒鳴られ、妹(アリエッタ)に泣かれ、弟(シンク)に睨まれるかもしれないが、たまの息抜きくらい許されるだろう。何せ、六神将という形でオラクルに正式に配属されることになって初めてルークの戸籍が安定したのだ。それまでは、こっそり荷物の中にもぐりこみでもしない限り船に乗ることすらも出来なかった。ただでさえ子供の上に、身分証がないので国外に出ることがかなわなかったのだ。
さっさと偽造でも何でもいいから身分証よこせ髭!お父さんにむかってなんていう口の聞き方だアッシュ!!私はそんな子に育てた覚えは...育てられた覚えはないっ!!
何度、そんなほほえましいやり取りと共にオラクル本部が破壊されたか(九割九分、ルークによる破壊だが)両手では数え切れない。ちなみにヴァンの部屋の破壊回数がトップだ。昔の師匠への憧れなどどこに消えたのか、愛する弟子に散々いじめられて髭もといヴァンが枕をぬらしたのはやはり両手の指では足りない日数だったけれども、そんなことを知ってもルークはこういっただろう。
キモイ、髭。
それでも一応心配させないように、ヴァンの机に置手紙は残してきたのだけれども。
『家出します、さがさないでください』
...軽い嫌がらせだ。リグレット辺りに閣下なにをやらかしたんですかあの子はまだ小さくてあああああああアッシュー!!!とか叫ばれて、アリエッタにうわあああんアッシューとか泣かれて、シンクに腹いせに嫌がらせの数々を浴び、ディストとラルゴに無言で睨まれ続けて針のむしろになっているだろうヴァン総長の図が簡単に浮かんでくるけれども、まぁもちろん割と確信犯なのでルークは気にしない。
思い出してみれば、オラクルに世話になっていたわりにずっとオラクルには配属されていなかった。となると、オラクルの兵士達はただの少年に何年も何年もやりこめられてきたことになる。...必死に訓練を続けている彼らが可哀想なので、ここら辺の深い追求は禁止。
さて、話を元に戻そう。
明るい太陽を一杯に浴びて、大胆にも髪をフードで隠しただけのルークはうーっと伸びをした。
さて、どこに行こう。
アリエッタにお土産くらい買って行ったほうがいいかもしれない。帰ってから機嫌を取りやすいだろう。それに、シンクにも何か面白いものを見つけていこう。ああそうだ、アイツの部屋は殺風景だから、花の種なんかいいかもしれない。
グラジオラス、コレなんかどうだろう。花言葉は用意周到。...うん、シンクにぴったりだ。
そんなこんな、久々に誰にも邪魔されないでのんびりと市場を眺めていたせいで、ルークは自分が好奇の目線を浴びていることに全然気づいていなかった。
年齢的には(外見)十五歳。一人で市場を歩いていてもおかしい歳ではないが。
先ほどから、観光客をカモにしているスリたちがなぜか手を押さえて悶絶している姿が点々とルークの通ったあとに続いているのだから仕方がない。
日ごろ、ヴァンとかオラクル兵士達を相手取って行う(強制)鬼ごっことかで鍛えた技だろうか。もしくは(突発)かくれんぼのせいだろうか。とりあえずいずれも只人では相手にすらもならなくなってしまった。ご愁傷様である。
「あー...皆元気かなぁ...」
皆。
それは、ダアトの皆ではなく。
この世界のルークは、まだであってもいない仲間達。
そこらへんに積み上げてあるブウサギの人形を見るたび、あの自由奔放な皇帝を思い出したりもする。...何度、ソテーにされかけたサフィールを見たことか。
某皇帝の某幼馴染というか懐(に入れるとすぱっと切れる)刀の彼が、笑顔でイグニートプリズンを唱えるたびに、止めるのはガイかルークだったような気がする。

『ジェイド、お前それじゃ丸焼きだろっ!!ってゆうか、お前ブウサギの肉嫌いじゃんか!!』
『...ルーク、確かにそうだ。そうなんだが...』
『ガイー、面白い教育をしましたねぇ?』

あの時は、別段なんでもなかったのに。
何で、今思い出すとちょっと切ないのか。
今となっては、こっそりジェイドのメガネを鼻眼鏡と取り替えてミスティックゲージを喰らったことでさえも楽しかったような気が...いや、それはさすがにない。
ミュウではないので、ルークはそこまで真性マゾにはなれなかった。
本人にそんなことを言ったら、笑顔でインディグネイションなので注意。

「あー、何か今無性にジェイドの顔みたいな...」
「呼びましたか?」

ずざああああっ!!!!
その場にいた人々の、常人の動体視力で追いつくことはかなわない。
瞬時に危険を察知し、常日頃(...ヴァンとかヴァンとかヴァンとかで)鍛えた瞬発力で走り出したはずのルークの目の前には、笑顔の...笑顔のメガネがいた。

「おかしいだろっ!!追いつけるわけねぇっ!!」
「いやー、なんだか逃げ出しそうだったので、先回りしただけですよいやですねぇ。初対面の人を化け物みたいに言わないでください」

胡散臭いその台詞に、マルクト軍の皆がいっせいにくしゃみをした...かもしれない。
うさんくせぇ、うさんくせぇよこのおっさん。
ルークは思ったけど、心の中だけにとどめておいた。顔で笑って心で修羅。マルクト印の死霊使いは、どうやらあふれるほどに元気であったらしい。...先ほどまで、昔を懐かしんでいたはずのルークは、もう考えを改めている。
うわ逃げてぇ...
というか、何故今ここにネクロマンサーがいるのか理解できない。ブルーの軍服と、赤い譜眼、加齢はどこで止まったのだと聞きたくなる容貌。どこを見ても、記憶にあるままのジェイドだ。
「フード、取れてますよー」
「あ、やべ」
言われて、ルークは思わずフードを押さえた。...走った拍子に取れてしまったらしい。
目の前のニコニコした軍人の笑顔が、さらに深いものになる。...背中に寒気が走りまくった。危険信号点滅中。
「赤い髪に緑の瞳、それにその身のこなし...貴方がオラクル騎士団六神将流星☆のアッシュですか」
ぞわわわわわっ
瞬時に走った鳥肌に、思わずルークは全身をかいてしまった。
そして同時、アッシュに謝る。
ごめん、悪かった、アッシュ。散々心の中で『酸欠』とか『貧血』とか『専決』とか『献血』とか思ってて悪かった。
流星ってなんだぁっ!!かゆいにも程がある。しかも、このおっさん言うに事欠いて今☆つけただろう。鳥肌2割り増しだ。
「あぁ失礼。暁のアッシュでしたか」
ルークの反応をたっぷり楽しんでから、のんびりと訂正がかかる。
わざとだ。絶対わざとだ。
...一瞬、ルークはジェイドに殺意を覚えた。

当たり前ではあるが、ルークに向かってジェイドがアッシュと呼んでいるのが不思議な気もする。ジェイドにとって、ルークは初対面で、そしてオラクルの兵士。
「で?...オラクルの六神将殿が、わが国に何のようです?」
どうやら、ジェイドはルークを警戒しているようだ。物腰は柔らかいが、とげがばしばし刺さっている。
「観光」
素直に答えると、メガネがずれるのが見えた。大変珍しい。今晩は、槍でも降るだろうか。
「...それに、先ほど私の名前を呼んだようですが...?」
「おっちゃーん、そのブウサギのぬいぐるみくれー」
「...」
「あ?何?」
「いえ...あなた、どこかでお会いしたことはありません...よねぇ?」
「ナンパか?」
「知っているような気がしたんですが、気のせいですかね」
ナンパは否定しないらしい。
しばらく、何かを考えるようにしていたジェイドは、失礼しました。といっていなくなってしまった。
いっそ、あっけない。
ジェイドがメガネを押さえたら粋護陣。生存に必要な反射をやりそうになっていたルークは、なんだったんだろうとか思いながらとりあえず髭には昆布でも買っていくかと商品を手に取るのだった。


「...どうして、でしょうかねぇ。」
ネクロマンサーの呟きは、ルークには届かない。







えっと、別段タイトル打ち間違えてませんから(笑)
なんとなく、面白そうだなと思っただけです。
このシリーズ、あんまり考えないでタイトルつけてますそういえば。
グランコクマ出張編(笑)、ジェイド出っ張りましたねぇ。
2007.01.11