ここは、どこだろう

やさしくて、あたたかくて、きもちいい

ずっとずっと、ゆるやかにねむっていたい

だって、おれはとてもつかれて、ほんとうにねむいんだ

もう、ねてもいいよな?



音素乖離で、いつ消えるかも判らない身体を引きずって師を倒し、ローレライを解放したルークは、本当につかれきっていた。
最後に、アッシュはどうなったんだろうとぼやっと思ったけれども、どうしてだか思考は薄膜一枚を隔てたように霞がかってはっきりとしない。
約束をした。
仲間たちと、かなわない、約束を。
それだけが、本当に心残りだったけれども、でもどうしてもけだるい身体は何も行動も示せないくらいに疲弊していた。申し訳ないと思いながらも、ただ、その疲労感に任せて眠りたい。
『いっやー、めんごめんご、ちょっとまってなー』
母親の胎内を漂う胎児のように、身体を丸めて目を閉じていたルークの頭に直接、何か間違っているような軽々しい口調が響き渡りまくった。
一瞬にして、眠気も何も吹き飛ぶ。
めさくさ聞き覚えのある声だったからだ。しかし、そのときはもちろんこんな口調ではなかった。間違いない。
え、ちょっと待って俺こんな奴解放する為に頑張ったのナニソレ。
ルークがちょっと自分がかわいそうになったのだって仕方ないというものだろう。
だって、目の前にはどう考えてもあの第七音素意識集合体が鎮座ましましてたのだから。
『あ、やほー。我を解放してくれてサンキュールーク』
人の形をしているように見えないでもない『何か』は、そんな台詞と共にちょこんと右手を上げた。このしぐさ、どこかピオニーに似ている。
うわー、俺どんな夢だよこれあはは。
早くも現実逃避に走りかけたルークの思考を読んだかのように、『何か』はあくまでフランクに続ける。
『それでさー。やっぱりはいこれでおわりですーってのも後味悪いんだよね我―。やっぱ、完全同位体って可愛いじゃん?わが子、みたいな?』
みたいな?とか、じゃん?って、そんな女子高生みたいに。
『でもぉ、我の力じゃアッシュのほうだけを帰して上げることしか出来なかったんだよねあのオカメインコ。ったく、栄光を掴む髭も、もう少し往生際がよければこんなことにならんかったろうにねぇ...』
オカメインコ、栄光を掴む...髭?
ルークの記憶では、そんなに昔ではないころに、むしろ最近にその栄光を掴むなんとやらに向かって師匠ありがとうございましたっ!!とか何とか頭を下げた青春模様が思い出されるのだが。ついでに、オカメインコに至っては姫抱っこの経験もある。
それなりにシリアスで終ったはずのワンシーンが、どうして微妙にギャグシーンになりかけているのだろうか。洗脳だろうか。
『でさぁ、ルーク。やり直してみたくね?』
「は?」
ようやっと、ルークが発した言葉は間抜けな感じだった。
でも、君かわいいねモデルやってみないー?とかいう感じの軽い勧誘口調でとんでもないことを言われても頭に入ってこないのは人情というものだろう。
『我もねぇ、解放しては欲しかったけどルークにこんなんなって欲しかったのとちゃうわけよ。だからさー、やりなおしてみないー?』
なにその、だめな三十代代表みたいな口調。
お前、今までが素なのか、今が素なのかどっちだ。
そう、問い詰めたい気もしたけど、普通に『今―』とか言われそうで怖かったのでやめておく。思い出は綺麗なままでいて欲しい。
『今なら、技の使用回数とかキャパシティ・コアとかレベルとか記憶とか引継ぎおっけーよー?お得お得。』
今なら、ポイント倍増キャンペーン。洗剤にティッシュになんと柔軟剤までつけてしまいます、お得ですよ奥さん。
エセ訪問販売のごとく売り文句を連ねる『何か』に、ルークはなんとなく意識を全部放棄したくなってきた。先ほどは吹き飛んでいた眠気が、がんっと襲ってくる。
『おぉっと、時間ないねこりゃ。ほい、さくっとここにサインちょーだい』
どこからともなく現れた羊皮紙とペンを、半ばつかまされるようなかたちで持たされたルークは、眠気と格闘しながらも何とかそれにサインをする。...何でサインをしたのか、ぼんやりする頭ではもう考えられないけど、なんかとんでもない詐欺のような気がする。っていうか、眠い...
『ほい、契約完了―☆んじゃ、ルークが消えちゃう前にさっさと送るからねー。ファイト☆』
キモイ、☆なんぞ語尾につけてんじゃねぇローレライ!!
叫ぶ前に、だるさの局地まで来ていたルークの思考は、完全にブラックアウトした。
その前に、何か、ローレライが呟いていたような気がしたけれども、それがルークの頭に残ることはなかった。


『我の見る未来なんて、いくらでも変えてしまえばいいんだよルーク。...幸運を』


親の心子知らず-I pray for your being happy.-







親馬鹿ローレライ。ルーク逆行の瞬間。
もう一つの逆行のほうに使おうかと思っていたけれども、ローレライがフランクすぎるので却下。ちなみに向こうだと、グレードが足りなかったのか声を支払うことになるんですけどね。ふふふ
基本的に、ローレライさんはルークが可愛いのでべた甘やかしで御座います。
こっちの本編は、ハッピーエンドで終るか、でも少なくともルークが消滅することはないかと思われます。
前者だと、六神将全員ほだされパターン。後者はルークがストーリーどおりに寝返って、先手を打って髭を止めるってところでしょうか。
2007.01.31up