デザートは苺のスイートパフェで


やわらかすぎず、固すぎず。
口に入れればふわりと解けてほのかな甘みを出すくせに、少しもしつこくなくまるで雪のように繊細なクリーム。
摘みたてだという売り文句の苺は、綺麗にヘタ部分を処理されてさりげなくラズベリーソースがかかっているところがニクい。甘さが際立ち口いっぱいに芳香が広がる。
チョコレートも、まるでビックリ箱のように段々と積み重ねられた層の中に隠れる果物やスイーツたちも、全部全部。
飽きることもなくスプーンを口に運んでしまうほどの、魅力。
甘いものがそれほど得意ではないといっていたガイが無言でスプーンを動かしているのだから、何も甘味好きの乙女だからこその感想ではないだろう。
アニスは、自身の口にもひょいぱくひょいぱくとスプーンでパフェを運びながら唸る。
...美味しい。
ティアもナタリアも、出された当初は太る!太る!!と騒いで手を出さなかったのだが、アニスとガイが一目散に食べだしてから数分で陥落した。所詮、乙女の甘いものに対する我慢の緒など豆腐で作った紐よりもゆるい。成長期なのでそれほど気にしなくても済んでいるアニスは、多分食べ切って余韻を楽しんでからぎゃーぎゃー騒ぎ出す二人を想像して半眼になる。多分そのときに犠牲になるのはガイだ。...なぜか。
ご愁傷さま、と今のうちに心の中だけで思っておく。

さて。

そろそろ、見たくもない現実と対面しようかと...アニスはこの芸術的ともいえるパフェを作った人物(決して、見た目も中身もどこもかしこも甘くない。むしろ食べたら解毒剤が必要なほどに腹を下す。間違いない)と、その横でチーグルと一緒に口の周りをべたべたにしながら喜び勇んでパフェを食している七歳児のほうに目をやった。
別段、どんどんアニスのまぶたが落ちてくるのは眠いわけではない。
どっちかというと、ものすごく目つきが悪くなっているだけだ。...もしくは、現実に目を向けたくないからかもしれない。

アニスは、二人のほうに目をやると同時に、故意に聞かないようにしていた会話を拾うことにする。横でイオンがにこにことパフェを食して美味しいですねとかいってるのが聞こえた。うん、美味しいですイオン様。私もそれは認めます。ことこれに関してはビッグシェフにも劣らないアニスちゃんでも勝てません。
聴覚を解き放った瞬間、アニスの耳に飛び込んできたのはルークの声。

「やっぱ、ジェイドの作るパフェはうまいよなー」
「おや、そうですか?」

ああ、なにを初めて聞きましたって顔で流してんだよこのクソ眼鏡。てめぇルークが初めてこれ食べて同じ感想漏らして以来さりげなく一定周期で作ってんだろ。
(もちろん、本音は口にだしてはいけないということを若干十三歳ながらアニスは十分といえるほど学んでいる。特に、このネクロマンサーの前で本音など漏らそうものなら消し炭どころか音素分解される。笑えない。)

「ルーク、口にクリームが付いていますよ」
「え?どこ?」
「ここです」

ぺろ。
自然な動作でルークの限りなく口に近い位置(っていうか、それ口だろうとアニスは思った。あくまで思っただけで口には出さない)に付着したクリームを己の舌でなめ取ったジェイドは、きょとんとした顔のルークにしれっと言う。

「こうしたほうが早いですから」
「ああ、サンキュな。」

ダメだ。誰かあの七歳児に教えてそれは正しい取り方じゃない。普通に指でとれっていうか本人にやらせろ計算ずくかそこの鬼畜眼鏡。
静かに心の中でリミッツゲージが溜まってゆくのを感じながら、あくまで心の中だけでアニスは冷静に突っ込みを入れて行く。あ、苺発見。

「苺って俺好きなんだよなぁ...」
「では、私の分を一つあげましょう...どうぞ」

だから、どうしてわざわざ食べさせる。本人に持ってかせればいいものを、ご丁寧にスプーンですくって、口まで運んでやる?...あー、めっちゃルークうれしそう。

...
...
...

そろそろ、限界を感じたアニスが立ち上がると、皆はなれた様子でパフェの器を持ったまま避難して行く。お前ら少しは手伝えよと睨んでみるが、まず天然王女のナタリアは首を傾げてきた。...判りきってはいたが、だめだ。
本来、ルークに何するんだ旦那!!と叫んで止めにいくはずのガイは、さりげなくパフェに仕込まれていたらしいカーティス印の謎の薬品により机に突っ伏している。パフェが残っていてもったいないとは思ったが、手を付けたくはない。
そして、数少ない理性人のはずのティアは...小さな手で苺をかかえてうれしそうに頬張るチーグルの姿にめろめろしている。...あてにならねぇ。
もちろん、守るべき主の、純粋無垢なイオンに任せるわけには行かない。アニスはイオンをティアのそばまで下がらせた。このままでは、机に残っているガイがもろに巻き込まれそうだが無視。万が一騒ぎで目を覚まして参戦してくれれば御の字だ。

「おやおやルーク、次は指についていますよ」
「わ、指なめるなよ汚いだろー」

...
...
...ぷち

自分の中で何かが切れるのを聞きながら、アニスはことのほか冷静な気持ちで立ち上がった。
ん?どうしたアニスとルークがかわいらしく首をかしげる前に、背負っていたトクナガを巨大化。

「やろーてめーぶっころーす!!!!!!!」

本来の食事風景といたいけな二歳児の導師を守るべく、今日も一人アニスは奮闘する。
今日のターゲットは、甘いものよりも無駄に甘い空気を振りまくバカップル。
もう、三万ガルドなど気にせずにやるしかない。
派手なのいっくよー!!と繰り出す秘奥儀は主に動けない金髪使用人に当たっているが、それはそれ、運命というもの。
とりあえずフィーバータイムをぶちまけながら、アニスは渾身の力を振り下ろした。

いちゃつきは他所でやってください。






見せつけ禁止。ジェイドは魂胆みえみえの料理しか作らなければいい。
ルークはまったく気づいていない、天然。
2006.12.12