絢爛の宴と野菜ジュース
「うぜー」
ルークがうめくのも無理はない、いつもは元気よくはねている襟足の髪もどこか元気がないようにも見える。...まぁ、とあるかわいいもの好きのから返事のおかげでサンドワームだのベヒモスだのレプリカンティスだの、無駄にごっついモンスターと戦う羽目に陥っているのだから。
ベヒモス、レプリカンティスをクリアして、現在砂漠。しかも砂嵐のおまけつき。
どうしてこうもそろいもそろって探しにくいところにしかいないのだいや別に探しやすいところにいたら今頃世界中から討伐隊が組まれているわかっているがやはり魔物に文句の一つもいってやりたい。...湿地帯だの洞窟の奥の奥だの、おまけに砂嵐のふきすさむ砂漠だの。...いや原因はそもそも長い髪が風に吹き上げられるのに眉をしかめているクールビューティーだが。
ガイラルディア・ガラン・ガルディオス。
伯爵としてグランコクマに屋敷を構える貴族たる彼は、文句を言いながらもおおむねティアのためにサンドワームを探して歩き回る七歳児をとろけそうな視線で眺めていた。
ああ、相変わらず俺のルークはかわいいなぁ...
思わず口に出していたけど、幸い(ある意味)ガイは今回戦闘メンバーではないのでルークとかルークとかルークの耳にそのアブナイ発言は届いてない。
そのかわり、ガイの横で同じく皆を見守っていたアニスがすごく邪悪な顔で鼻で笑った。
...月夜ばかりと思うなよ。
言外にお前いちいちルークに萌えてんじゃねぇよといわれているような気もするが、仲間のちょっとした冷たい視線くらいでへこたれるような親馬鹿ではない。何せガイはスーパー親馬鹿なのだから。
現在パーティメンバーはルーク・ジェイド・ティア・ナタリア。
水属性に弱い砂漠には、秘奥儀が炎属性のガイは余り向いていない。
でもって、アニスは「だってトクナガに砂はいるしーぃ」といって辞退。よって、消去法でこの面子なのであるが。
「おっと、足が滑った」
ずしゃあああああっ
どう考えても滑ったとかそういうレベルを超えてジェイドの足が砂を蹴った。
それは、ピンポイントでルークの襟元辺りに直撃する。
「うわ、ちょっと何すんだよジェイド!!」
「いやあ、すみませんねぇちょっと足を滑らせまして」
頬を膨らませたルークもかわいいなぁとか思って向こうでガイが萌え萌えしていることなどもちろんこの七歳児は気づいてもいない。ちなみにこの三十五歳は気がついている。
うっかり、宝刀ガルディオスを抜いてジェイドに投げつけそうになった手前で理性を総動員して制止した(何せ、ヘタをするとルークに当たる)ガイは、しかし次の瞬間迷うことなくそれをすさまじい背筋力で投げつけていた。
砂が入ったとわめくルークにでは私が取ってあげましょうとかいって黒いインナーをぬがけかけたからだ。...もちろん、そんなことをやるのは理性人ティアでも大穴ナタリアでもなくジェイド。ジェイド・カーティス三十五歳独身。
もちろん、すさまじい勢いで飛んできたガルディオス(本人ではなく剣)など首を軽く動かすだけで避けた。後ろにも目が付いているのだとアニスが確信していたけれども話に関係ないのでカット。
「おい、旦那何してるんだ?」
「おやおや、私は親切でルークの服の中に入った砂を余すことなく取り除いてあげようとしていただけですが?」
そうだよガイ人の親切は疑っちゃいけないってティアがこの間いってたぞ。と、七歳児は今にもわが身に降りかからんとしていた世紀の大災害に毛ほども気づいていない。大体五千と百歩譲って親切だったとしても、その台詞は今なおすさまじい勢いを保つ砂嵐の中ではなく一旦アルビオールに戻るなどして行われる行為であろう。
こんなところで服を脱ごうものなら、さらに砂が入ること請け合いだ。
ガイは、ルークの台詞に思わずすさまじい形相でティアを見た。
ティアは、さっと目をそらすとミュウを抱き上げて話しかけている。...どんな話のそらし方だ。
行き場の失った怒りに燃える瞳をそのままジェイドに向ければ、煮ても焼いてもつついてもゆでても焦がしても食えそうにもない...いや、気を抜けばどんなマジックか奴の身体に同化しているケテルブルグ産の巨大フォークでまるまるとこちらがくわれる。頭からバリバリと...笑顔でジェイドは言ってのける。
「そうですよ、人の親切を疑うとは心外ですね。傷つきますよ」
「旦那のどこに裏のない親切があるっていうんだ?」
「おやおや、私は常日頃から清く正しく生きていますよ」
「なーなー、ジェイド、ガイー。サンドワーム」
「ちょっと黙っててくれな、ルーク。あとでお前の好きな海老グラタンを作ってやるから...」
「あ、まじ?やった!!」
ばちばちと、真空放電のごとく火花を散らす(あくまでどちらとも笑顔だ。すさまじく)マルクトの若き大佐と伯爵。はさまれたルークがちょんちょんとガイの服のすそを引っ張って結構大事な用件を伝えようとしたがガイの一言で頭から吹き飛んだらしい。素直にうれしそうに笑う七歳児を大変かわいいなぁとかちょっとやばいくらいとけてる(アニス談)にやけ顔でぐりぐりとなでてから、絶対零度の瞳をジェイドに向ける。プリンセス天○もビックリの変わり身は結構日常茶飯事なので誰もいまさら突っ込んだりはしない。
無言の笑顔でにらみ合い続けるガイとジェイドの腕からそろーっと抜け出したルークを、パーティの最後の要ティアがそっと引き寄せる。
常日頃、メロンの呼び名高いその胸がちょっと頭の後ろに当たって健康な青少年であるルークがちょっと赤くなったけれど、ティアは気にせずそのひよこ頭をなでる。なでなで。
「なー、ティア。いいのかあの二人ほっといて」
「いいのよ、ルーク。あの二人はどちらが先に倒せるか競争しているの」
「そうそう☆気にしちゃだめだよー」
同じく、ちょっと守銭奴(ちょっと?)の割と理性人アニスがうなずく。さりげなくひよこ頭をなでなで。
心の中でいっそあいつら相打ちしてくれれば少しは穏やかな旅になるんじゃないかなとか思ったりもしているけどもちろん声に出したりはしない。伊達に鍛え続けたわけではない乙女の勘は、特にあのブルーの軍服を身にまとった方は声に出したが最後どこまでも追ってくるだろうと告げていた。...この若さで人生を棒には振りたくない。
「まぁ。でも二人ともサンドワームではなくてお互いに切り結んでいるように見えるのですけれども」
理性人...とはちょっと別方向にベクトルの傾いた感のあるナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディアはそういいながら首をかしげた。
「...いいんだよナタリア。変態共が相打ちしてくれたらもうけもの、サンドワームが狩ってくれれば万々歳、どちらか一方が生き残ってもそこは私達でとどめをさせばいいんだから」
疲れた、どうみても十三歳の少女が浮かべるには渋すぎる悟りの表情で答えるアニスに、ふーん?と王族二人が首をかしげる。うち一名は、多分自分が常日頃その変態たちの餌食になりかけているのを理性人たちによって守られているということを知りもしないだろう。...いや、知らないままの綺麗なルークでいてお願い。とアニスとティアは心の中だけで呟く。
視線を戻してみれば、すでに秘奥儀の応酬になっている親馬鹿使用人と鬼畜眼鏡の余波によって砂漠伝説の魔物であるはずのサンドワームがぷち倒されていた。特に二人に外傷がないことを見ると、特に一矢報いることもできなかったらしい。
「「ちっ」」
ティアとアニスが同時に舌打ちをしたが、ルークとナタリアが首をかしげるとナンデモナイヨと笑った。内心使えねぇなこのミミズ野郎とか思っていたけどもちろん口に出さない。
「俺のルークに手を出すな!!烈空斬!!」
「誰が誰のものですかタービュランス」
その後、一時間ほどして砂漠を通りかかったアッシュがそこに参戦したかどうかは...定かではない。
(おわれ)
狼大佐を放し飼い、羊飼いガイもさりげなく子羊ルークを狙ってます。
二人で取り合ってればいい、そして大佐はセクハラ大魔王です。気づかないのがうちの白ルーク。
アニスもティアもルークのことは大好きなので、毎日頑張ってルークが変な知識を与えられないように守るの必死のようです。
それに気づかないナタリア姫(笑)
2006.12.13