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はじめましてを伝える方法はたくさんある
さよならを伝える方法は一つだけ
ルークは、アクゼリュスの惨状に少しだけ目を伏せた。
どう考えても、慰問をするために派遣された少人数のルークたち一行ではこの住人達を崩落までに安全な場所に避難させることなどできはしない。
目に見えて、終末を告げるような濃い障気。
人の身体を蝕むそれは、ある意味人の罪の証ではあるのだけれども。
もちろん、だからといって放っておくわけにはいかないしついてすぐに介助を始めたアニスやティア、ナタリア、ガイといった面々は間違ったことをしているわけではない。
けれども、それが焼け石に水だということは最初からルークにはわかっていた。
そうして、この場所が自分にとって皆との別れの場所であることも。
そう、最初から、この世界に二度目の生を受けた最初から、ルークは決めていたのだ。
この場所で。
自分の罪の場所で、もう一度世界と別れを告げることを。
そうやって、思ってみれば不思議と自分の心は落ち着いていることを感じていた。
だって、最後に少しだけだけれども一緒に旅をすることが出来た。
何度繰り返す世界でも一番大切な、大切な人と一緒に。
何度繰り返す世界でも、一番大好きな、大好きな人と一緒に。
だから、もう大丈夫。
・・・ホントウニ?
心の中で問いかけてくる声は聞こえないふりをして、ルークは首をゆるく横に振った。
「...どうしました、ルーク」
ティアがオラクル騎士に呼ばれて一時離脱し、今は一行で一番障気の酷い坑道へと入っている途中である。後ろを少し離れて歩いていたルークが、真っ青な顔をしていたことに気づいたジェイドが小さく声をかけた。
普段のジェイドであれば、おそらくはありえないはずの行為だったけれども、デオ峠からこちら、どうしてだろうかルークの行動が気になり始めたのも確かだった。
否、ずっと気になってはいたのだ。...それを、認めたくなかっただけで。
向こうで、アニスがわざとらしい声で「たいさぁ、そんな人構わなくていいですよぅ」などといっているのが聞こえるけれども聞こえないふりをする。
話せないルークの声は、些細な音でも聞こえなくなってしまうほどに小さい...ルークの、『聞こえない声』は、実はずっと、ずっと繰り返されていたのではないかという気が、してならないのだ。
なんでもないよ、と首を振るルークを、じぃっとジェイドは見つめてみる。
すぐに、ふいと視線はそらされた。
「ルーク、ちゃんと話してくれなければ伝わりませんよ」
まさか、自分がこんな年下の敵国の貴族の少年にまるで子供をあやすかのような穏やかな口調で話しかける日が来るなど誰が想像しただろう。
間違いなく、今のこの現場を押さえれば幼馴染の某皇帝など鬼の首を取ったようにはしゃぎまくるに違いない。それくらい、自分らしからぬ行動であることを理解している。
理解していて、そうしてしまうのだから本当に自分はどうかしている、と思う。
すっと、ジェイドの手のひらに伸びた手は、しかし
『大丈夫、なんでもない』
と、それだけをつづっていた。
ふぅと、ため息をついたジェイドはそうですか、とそれだけを残して先を行ってしまったメンバーに追いつくべく足を速める。
そうすれば、ゆっくりとした歩調で歩いているルークはすぐに離れてしまった。
だから、ジェイドは気づかなかった。
離れたときの、ルークの表情が、まるで泣き出しそうに歪んでいたことを。
『聞こえない声』は何度もジェイドを呼んでいたのに、ジェイドはそれを聞き取ることが出来なかった。
ゆっくりと、パッセージリングに手を伸ばす。
満足そうな顔のヴァンは、おそらくルークが自分の企みを最初から知っていることなど知りもしないだろう。
壁際に吹き飛ばされたイオンは、ミュウがクッションになっているおかげでそこまでの怪我を負ったわけではなさそうだ...良かった、と心の中で呟く。
大丈夫、この七年、何度も訓練してきたこと。
手のひらに光を集めるイメージを鋭くして、そうして一本の強いものにする。
向こうから、自分のオリジナルが怒鳴り込んでくるのが聞こえる。そうして、仲間達の足音も。
でも、それと同時にルークの超振動はすでに終結していた。
力を解放した反動で、ふらつく足元に倒れこんだルークをと同時、地面が揺れ始めたのを崩落の予兆と知ったのかヴァンはアッシュを連れて離脱してしまう。
少し向こうで、ティアが譜歌をつむぐ声が、聞こえた。
力の入らない身体が、崩れ始めた地面から投げ出されるのを、ルークは他人事のように眺めていた。向こうで聞こえる自分を呼ぶ誰かの声。そうして、重力よりも少しだけ緩やかな落下の感覚。
浮遊感、同時に、これで終ることができるという安堵が勝る。
アクゼリュスは崩落する、預言の通り。
ただし、『泥に沈まぬまま』。
それが、ルークのずっと描いてきたシナリオだったのだ。
崩落の危機という点においては、どうしてもアクゼリュスの崩落は避けて通れない。
ならば、それを最小限に抑えて世界の目を崩落の危機に向けさせる必要がある。
ミュウに預けた自分の日記には、パッセージリングの性質、障気の中和、レプリカの製造などを記しておいた。怪しまれるだろうが、きっとジェイドならば正しく使ってくれると信じているから。
モースの企みも記してあるから、きっとアニスを解放してくれるだろう。この仲間達ならば。
ずっと閉じられ、障気で汚染され続けたパッセージリングを操り大地を一部だけでも下ろすことは無茶だということは最初からわかっていた。
だから、このシナリオを立てなくてはいけなかったのだ。
セルパーティクルに飲まれていく身体は、段々境界線をなくしてゆく。
ユリア。
導く人。
俺は少しでもあんたの悲しみを減らせたかな。
きらめくセルパーティクルが身体を包むのを感じながら、ルークの気持ちはどこまでも穏やかだった。だって、これは自分の罪で、罰で、その証。
許されないはずの幸せをもらってしまったけれど。
一緒にいれた。
手袋越しに触れたあの大きくて優しい手。
け...れど。
きゅっと、自分の拳を握り締める。
我侭で、浅ましいと思いながら繰り返し繰り返し、何度でも触れたいと願うようになってしまった。最初から決めて、覚悟していたことなのにいつのまにか、もう少し、後もう少しと。
たとえこの身に与えられた記憶が偽りでも、あの人を恋焦がれた気持ちだけは本物。複製なんかでは絶対にない。
じぇいど
音素に解けかけた身体からは矢張り声は出なくて。
さよならを叫べなかったのと同じに、大好きな名前を呼ぶこともできない。
だけど、ルークは繰り返した。
じぇいど、じぇいど、じぇいど
のどがちくりと痛む。否、全身がいまや燃えるように痛い。
それでも、泣き叫ぶように、名前を繰り返す。
全部が音素に解ける瞬間。
・・・ありがとう、優しい子。
不思議な、長い髪の綺麗な女の人がこちらに向かって微笑んだように見えたけれども、誰だろうと考える前にルークの思考は全て解けてしまった。
夕月夜に燃ゆる波
...ここで終ったらどうなんだろう(笑)
もちろん続きますよ♪らぶらぶジェイルク目指して!!
物語とあとがきのテンションの差は気にしないでやってください(笑)
2007.6.19up