どうして、手放そうとしてから
その手をつかみたくなるのだろう。



知覚及び自覚に関する考察



あれほど、自分らしくない行為をしてから、いざアクゼリュスの人間を連れて外郭へと戻ろうとしたときにあきれるほど未練はなかった。
アッシュが現れたことで、すぐに気をまた失ってしまったルークを置いていくことに、誰一人反対しなかったのは、ここ最近のルークの行動によるものだろう。...ただでさえ、今ルークにはアクゼリュス崩落の直接の原因というレッテルが張られているのだ、好んで一緒に行動したいと思うような馬鹿は早々いないだろう。アニスなどは、子供らしい残酷さで、横のイオンが痛ましい顔をするのにも気付かずに矢次ばやにルークに対しての辛辣な言葉を連呼している。
...その馬鹿な行為を、再三自分がとってきたことに関しては、考えない方向にしよう。
アクゼリュスの人間を連れて、と言っても、移動させることすらできないほどに瘴気にやられてしまった者たちの方が多い(それゆえに、そもそも救助隊が組まれていたのだ。)。
そういった人間は、ユリアシティの人々が面倒を見てくれることにはなり、それでもできるだけ多くの人間を連れて、セフィロトツリーを利用し外郭大地へと戻ってきた。

アクゼリュスの人民を近くの港に託し(港の兵士は混乱はしていたが、事実アクゼリュスの住民たちであるゆえ、すぐに移送船が組まれた。)、ベルケントにて、フォミクリーの存在を確認し...そうして。
やはりというか、事実ルークはアッシュのレプリカであったことを、確認した。
それは、アッシュ本人の口から語られたことであり、それはつまり、今まで行動を共にしていたルークは真実はルークではなかったことを示す。
そのことに、明らかな嫌悪感をありありと顔に出したのはナタリアとアニス。そうして、微妙な表情だったのはイオンとガイ。ここにはいないために想像でしかないが、恐らくティアは前者であっただろう。
加えて、アッシュがルークという存在を真っ向から否定する発言を連呼するために、女性陣のルークへの嫌悪は増大していくようだった。もちろん、自分のスタンスから考えれば、それを傍観こそすれ止めることなどありえないので、放置することにしていた...はずなのだが。

「でもぉ、やっぱりレプリカって劣化してたんですねぇ。しゃべれないとか、もしかして脳の方の劣化じゃないですか?だからあんなことしでかしたんですよ!ね、大佐ぁ」
いつものように、やたら甘い語尾で言ってくるアニスを、普段の自分なら難なくいなしただろう。
第一、こういった蔭口の類に巻き込まれて得をすることは何もない...かかわらない方が得策。
そうして、今もそのつもりで笑顔を浮かべたはずだったのに、アニスの顔がひきつったところを見るとうまくいっていないのだろう...珍しい失敗だ。
「た、大佐ぁ?なーんか顔、怖いですよぅ?」
ひきつった顔で言ってくるということは、相当今の自分の顔は殺気をはらんでいるらしい。
「おや、そうですか?...まぁ、気にしないでくださいアニス」
アニスはさとい子供だ。...気になることでも、自分の明らかな不利益となることならすぐに手を引く。実際、少しでも笑顔を浮かべてそんなセリフを吐けば、アニスは適当に笑って、小走りにイオンの方へ行ってしまった。

(確かに、口がきけないのは劣化のせいだろう...だが)
いつも見せていた、どこかすべてを知りきったような、瞳。思えば、出会いの時からあの子供は、自分のことを知っているようではなかったか。
(もし、もし仮定として...)
仮定で話を進めることも、その仮定が普通起こり得ないことであるという事実も、本来の自分であるならば馬鹿馬鹿しいと思ってやるはずのないことだけれども、今までつもりにつもった、そうして目をそむけてきた違和感を解き明かす何かが出てきたような気がして、ジェイドは思考に沈む。
(もし仮定として、あの子が最初から、すべてを知っていたとしたら...?)
『すべて』が何を指すのか、それはさすがにジェイドにもわからない。
けれども、今までのルークの行動を総合すると、明らかにルークは出会う前からジェイドのことを知っていた。...アニスやティア、ミュウなどについてはわからないが、ありえないという概念を除けば、間違いなく。
...あまりにも残酷な仮定になるが、クローズドスコアに記されたアクゼリュス崩落と、それと同時のルーク・フォン・ファブレの死も知っていたのかもしれない。そしてもちろん、自分がすり替えられたレプリカという存在であったということも。...そして、アッシュの存在も。
そうであったのだと仮定すれば、ジェイドの以前の問いに対する答えも、アクゼリュスが近くなるにつれてあからさまにおかしくなった行動も、説明がつく。
最初から自分が何者かを知り、そうしてその上でジェイドを許していたとすれば...そうして、『アクゼリュス』という回避できない崩落のスコアの被害を、少しでも軽減しようとするのならば...。
(本当に、ルークはヴァンに操られて超振動を発動し、パッセージリングを壊したのか...?大陸を支えるリングを破壊して、あれほど少ない犠牲ですむものか...?)
すべてを仮定で成り立たせたはずなのに、すべてのピースがはまっていくのを感じる。
もしも、もしも。
この、もしもが、本当だったら。
背中を、すさまじい悪寒が走るのを、ジェイドは感じた。
死霊使いとして、味方にすら怖れられたこの自分が、恐怖におののいているのだ。
(私たちは、もしかして、まるでありえない、過ちを?)
自分の頭が出した結論と同時、冷静な部分がジェイドに告げる。

それはすべて仮定であり、事実ではない。ゆえに、真実にはなり得ない。

だが、ジェイドの手の中には、仮定を事実に、そうして真実に昇華させるために必要なピースは一つとして存在しなかった...当たり前だ、自分は、あの子供を、おいて。
どこかで、「ルークには何度も問いかけた。けれどもあの子は答えなかったのだ」と自分を擁護する声が聞こえてくる...けれども、ジェイドの中の大部分は、すでにあることを認めざるを得なかった。
知ろうとしなかったのは、わかろうとしなかったのは、誰だ?
アクゼリュスの罪すべてをあの子供に押しつけても、目をそむけても。
どうしても今、あの子供の少し照れたような笑顔が、浮かぶのだ。


―――いい加減、観念したらどうですか?


自分の中の、一番奥底で、心底面白そうな顔をした自分が、そういったのが聞こえた。



それからの自分の行動はあきれるほどに早かった。
アッシュから脅迫まがいにルークの通るであろう道を聞きだし、目を剥いて反対するアニスやナタリア、それに渋い顔を崩さないガイをのらりくらりとかわして、単身何とあの子供の迎えに出るのだ。...気は確かかと、自分でも自分に聞いてみたいところだ。
なのに、どこか気分はすっきりとしていることを否定できない。
アッシュから聞き出した、アラミス湧水洞の出口で一息をついて、同時笑いがこみあげてきた。
「まったく、私らしくない...」
だが。
仮定というピースを、ルーク自身から書き換えさせるそのことが。
自分にらしくない行動をさせていることは事実であり、認めなくてはならない。

と。
赤い髪の少年と、そうして水色のチーグルが出てくるなり何やら奇怪な動きをするのが見えた。
こちらからは向こうが見えるが、向こうからはこちらが見えないという絶妙の位置。
とりあえず、何をやっているかを確認するためにしばし観察していれば、少年は脱力して、笑いだして、そうしてほっぺたを自分で叩いていきなり地面にしゃがみ込み何かを探し始めるという、何ともあわただしく、この上なく怪しい行動を始めた。
...なんというか、観察対象としてここまで飽きがこないものも珍しい。
しばらく見ていれば、どうやらなにか地面に書きつけるものを探しているらしいことが見て取れた。
ちょうど、出口のあたりは開けた場所で、ジェイドのいるこちらは木も生えているが、あんなところで見回してみても、見つけられるわけもないだろう。
アクゼリュスに向かうことが決まってからこのかた、ずっとこわばっていたルークの表情は柔らかく、それは初めてジェイドがルークに出会った時と同じものだった...ついこの間のことなのに、そんな些細なことすら、忘れてしまっていたのだ。
(あの子は確かに声を持たないが...『声』はずっとあった)
空気を震わせる音でないから、聞かなかったふりをした。それに耳を傾ければ、知りたいことが知れるだろうか。
そうしたらもう一度、あの少年は自分にこの微笑みを向けてくれるだろうか。
とりあえずは手頃な枝をつかみ、地面を見回る少年の前にゆらゆらと揺らせば、少年はがばりと顔を上げる。
そうしてぴたりと硬直し、ありえないものを見るような眼でこちらを見てくるものだから、とりあえずジェイドはあきれのため息をつくことにしたのだった。





やった!!(何を?!)
長かった旅路を終えて、今三十路さんがようやく吹っ切れたようです。
うじうじうじうじと理性と感情のはざまを行ったり来たりしたようですが、たぶんこの人吹っ切れたらあとは開き直るだけでしょうから、早いでしょう(だから何が)
前回のルーク視点に合わせて、ジェイド視点なんですけれども。
ルークは話すことができないから、今まではルークに問いかけることはあっても、ルークから何かを話してくることなんてなかったわけなのですよ。
でも、思うだけで伝えることのできる類のものはほとんどなくて、結局思い返してみれば仮定しかできなかったってことに気づいたようです。
ここで、一週目(笑)のような完全ルーク切り捨てモードに走らなかったのは、ルークが自分の罪を認めないようなことがなかったのと、あとは今までので十分フラグが立っていたせい(笑)
気が付けば、ガイ様華麗に活躍場所を奪われて、ジェイドが駆けつけておりました。
この逆行話、アクゼリュスからしばらくの仲間の好感度はかなり低いです。ジェイドとイオン以外(笑)アッシュは、なんか気になるけどムカつくしできそこないだから嫌いだあんなやつって感じ(笑)
そういえばティアはどこで合流するんだろう(マテ)
でも、次回あたりからはさくっとケテルブルグ辺りまで(つまりは、ジェイルクポイントまで)飛ばすつもりなので、いつの間にかティアが戻ってきていたらごめんなさい。
所詮、この話は管理人のジェイルク補給のために書かれているというあとがきでした。(え)
長くてすいません。
2007.10.23up