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Honey , sweet honey!!
野宿。
その響きは、それになれた軍属のティアたちにとっても余りいいものではない。
ましてや、温室育ちである国のトップ...ルーク、ナタリア、イオンにとっては正直きつい以外の何物でもない。
昔のルークなら、即座にうぜぇたりぃかったりぃの三段活用を行っていただろうが、変わると決意してからはそれを口にすることも無くなった。ナタリアは性格上口にはしないし、イオンも文句を言うという行為自体がほとんど見受けられない。
(最近では、きちんと準備を手伝うようになったルークに保護者達がほほえましい目線をおくっていたりもする...本人は気づいていないが)
焚き火を囲み、簡素なシチューが配られて、各々口にしてほっと息を吐く。
今日の食事当番であったアニスが、アニスちゃん特製でぇーっすvvと甘ったるい声音出してわざとガイに抱きついてガイが悲鳴を上げている。...ガイは助けを求めようと隣を見たが、素晴らしい笑顔のネクロマンサーがいただけだ。(ちなみにもう片方がアニス)
ナタリアが少し笑い、ティアが食事中にふざけないの!!と二人を怒る。(ガイはとばっちりだ)かわいい物好きの彼女のそばで食事をしていたミュウがその拍子にちょっとびっくりして飛び跳ねた。
その騒ぎを、少し目線を上げてルークは見つめ、すぐに視線を自分の皿に戻した。
今の自分に、あそこに加わることは出来ない。
信頼を全て失って(元々無かったものだが)、変わると誓ったけれど、それはまだ受け入れてもらえたわけではないのだから。
視線を戻してからは無言でシチューを食していたルークは、ふと隣からの視線を感じて手を止めた。
横を向けば、イオンのにこにことした視線とぶつかる。
「...?何だ?何かついてるか?」
「いえ、そんなことはありませんよ」
「そっか?」
それだけで会話を終えて、ルークは再び食事へと戻る。
しかし、また同じ視線を感じてもう一度振り向く。
やはりそこには、先ほどと変わらず自分をにこにこと見つめている視線。
ルークは、心の中だけでああ、イオンも向こうに加わればいいのに。と思った。
その笑顔は、俺に向けられるべきもんじゃない。
思えば、出会った当初にイオンは自分のことを優しいといったが、それすらもルークに向けられるべき言葉ではなかったように思う。...イオンにこそ、向けられるべきものだ。
「...?」
視線の意図がわからなくて、ルークは困ったように眉根を寄せた。
すると、イオンがすみません。と謝る。
どうしてイオンが謝る必要がある。謝るのならきっと俺だ。
過つことすら気づかない、自分のほうだ。
「イオンが謝ることじゃないだろ」
「いえ...すみません」
「だから謝るなって」
堂々巡りになりかけたので、止める。一旦会話を止めて、ルークはイオンを促した。
「ただ、焚き火の炎に照らされている貴方の髪がとても綺麗だなと思っただけなんです」
「ばっ...別に俺の髪なんて綺麗でもなんでもないだろ」
いきなり褒められて、赤くなった顔を隠すようにぷいと目線をそらす。
俺はどこも綺麗なんかじゃない。俺はどこも綺麗なんかじゃない。
「いえ、炎に揺らめく朱の色が、幻想的ですよ。それに、僕はルークの瞳に炎が映るのを見るのもとても好きなんです」
そんなことはない。といおうとしてルークは止まった。
自分では見えないから、実のところその様が綺麗なのかどうか知らない。
ルークは、思いついたようにじっとイオンの深緑の瞳を覗き込む。
イオンは、ちょっとびっくりしたようだけれども、何も言うことなくしたいようにさせてくれた。
ゆらゆらと、形や色を変えながら揺れる炎は、深緑と合わさり幾千幾万にも形と色を変えてゆくのだ。どこか、吸い込まれるような感覚さえも覚える。
「...ほんとだ。なんか、綺麗だな」
呟くと、貴方の瞳に映るものはもっと綺麗なんですよ。とイオンが言った。
「水面を映す瞳も、月を映すその碧の瞳も好きですよ。だから僕は、野宿も結構好きなんです」
「そっかー。...俺は、イオンのも綺麗だと思うけど」
「ありがとうございます。ルークは優しいですね」
「ばっ、何言ってんだよ!!...シチューさめるぞ、さっさと食え!!」
「はい、ルーク」
打算も何もなく、心から言われた純真無垢な言葉に、今度こそ真っ赤になってルークはそっぽを向いた。背中でイオンが笑顔になるのを感じた。
その笑みが、自分に向けられていることが、暖かかった。
「...イオン様...タラシ...」
「あれで二人とも気づいていないから恐ろしいな...」
「まぁ、何がですの?」
「ナタリアはにぶちんだねー」
「
...いいなぁ
」
「何か言いましたか?ティア?」
「あ、いえなんでもないです大佐!!」
焚き火の向こう側で、仲間達のそんな声が響いていたけれどももちろん二人の耳に入ることはなかった。
最終兵器イオン様。天然バカップル。
断髪前でも、後でもいいけど素で口説けばいいと思う。
2006.12.17