なぁローレライ。
お願いがあるんだ。
俺が差し出せるものがあればなんだって言ってくれ。
だから、ふたつ、ふたつだけ。
お願いがあるんだ。
―――ルーク。聖なる焔の光。お前は何を望む?
大爆発の回避?それとも声を取り戻すことか?
お前は我の願いをかなえる。ならば、我はお前の願いをかなえよう。我のできることなら。
違う、そんなんじゃない。そんなのじゃないんだ。
俺が、望むのは。『 』と、『 』
―――...何故、お前はそれを望む?
俺は、もう後悔したくない。そのために、またこうして『今』を生きてる。
―――聖なる焔の光、お前が望むのは、救いではないのか?
慈愛の葬送歌
「はいっ」
目の前に差し出されたそれの意味がわからない。
差し出された手の主は、こちらと視線を合わせず向こうを見ている。でも明らかにその手に乗せられている見覚えも味も知っている物体...アップルグミは自分に向けて差し出されているわけで。
戸惑っているうちに、いつの間にかその赤いグミはルークの手のひらに押し付けられて、元気なツインテールはさっさと向こう...彼女の守るべき人の傍に消えていく。
ぽり、とほっぺたをかく。そのグローブの下の手を、先ほどの戦闘で負傷していたのだが別段ひどい怪我でもないし、わざわざティアやナタリアを煩わせるほどではないと思っていたので放っておいたのだが。
今まで、ルークをただの空気のように扱ってきた面々に、少しずつ変化が出てきたのは、良くも悪くもガイのカースロットの一件以来だった。
ガイが、実はファブレの仇敵ガルディオス家の長男であったと知って、ルークはしかし驚きもせずに受け止めた。...そして、長年その恨みを知りながら『知らない』ふりをし続けてきた自分を、詫びた。
もちろん、最初から知っていましたなどと説明することはできないけれども、仲間たちにとってそれ結果的にはルークの初めての謝罪になったわけだ。(アクゼリュスの件を、ルークはかたくなに詫びはしなかった)
それが、仲間たちとの軋轢のほんの少しの緩和につながったのだろう。
もともと、アニスもティアもナタリアも、情の厚いやさしい心根の持ち主なのだから。
ありがたく、受け取ったそのグミを口に含めば、甘酸っぱい味が体に広がってほんわりと暖かくなった気がする。
『ルーク!!もう、また服の裾破れてるしっつ!早く貸して、アニスちゃんが特別料金で繕ってあげる♪』
小柄で子供っぽいけれども、姉のように何かと世話焼きだった『彼女』を思い出す。
かつての、関係には、なれはしないのはわかってるけれど。
(あったかいなぁ...)
ジェイドに感じる、熱にも近い思いではなく。
じんわりとした心地よい、暖かさだ。
「ご主人さま、ご主人さま!そろそろセントビナーにつきますですの!」
ミュウが、足元ではねて教えてくれた...単調な街道をひた歩いてきたので変化に乏しく気付かなかったけれども、いつの間にかもう目的地の目の前に来ていたらしい。
「ルーク、ぼーっと歩いていると転びますよ」
先程は先頭を歩いていたはずのジェイドが、ふと目の前に来ていたことにも気付いた。
淡々とした口調にわずか呆れを忍ばせて言われるそれが、ルークは嫌いではない。
「それとも、具合でも悪いですか?」
(あ、まただ)
大けがを負ってからこっち、なんだかこそばゆいほどに優しくなった(あくまで、ルークがわかる変化であって仲間たちにとっては恐らく普段と見分けることは難しい、ほんとうに些細な変化だが)ジェイドも、かつての記憶の彼とはずれを生じていた。
少しずつ記憶とずれを生じる世界は、ほんの少し怖くて、ほんの少しわくわくして。
けれども、本質は変わらないのだと、目の前の赤い瞳が安心させてくれる。
ルークは、大丈夫だよと笑って答える。簡単な単語のやりとりであれば、ジェイドはルークの唇から読んでくれるので簡素な会話が成立するようになってきたのでこれくらいはたやすい。
「そうですか...では、行きますよ。急速に崩落することはないでしょうが、油断できる状態ではありませんから」
ぽん、と一度だけ乗せられたグローブごしの大きな手は、やはり記憶と変わらない広く安心させてくれるものだった。
(ちっ...なんでこの忙しい時に...)
いらいらとしながらも、万に一つも戦況を見誤るようなことはしない。
一個師団を預かる身であるジェイドは、自分の感情と行動を切り離すことなど息をするよりも簡単にできる。
タイミングを計り、的確な位置に譜術を放つ。今まさにナタリアに向かって攻撃を仕掛けようとしてた敵の動きがわずか止まって、その隙にナタリアが距離をとる。
それを確認して、また次の詠唱に入った。
カイザーディストを操る『馬鹿』は、崩落しかけているセントビナーの住人がまだ全員避難し終わっていないことなどお構いなしにド派手な攻撃を仕掛けてきており、対してこちらは住民を巻き込まないようにある程度規模をセーブした攻撃をしなくてはいけない。
本来であればティアやジェイドの譜術がより有効打となるはずだが、どんな衝撃が崩落を速めるかわからない以上、うかつなこともできないために、中級譜術による補佐にとどめることしかできないのだ。
だがしかし、数の利もあり、じわりじわりと追い詰めてきている。
決着は時間の問題であるのは間違いない。アニスのトクナガとガイの素早さ、そしてジェイド、ティア、ナタリアの間接的な攻撃が着実にカイザーディストの動きを鈍くしているのは目に見えてわかる。
いつも先陣を切る赤い髪の少年の姿は、今は入口の門よりもだいぶ後ろ側、住民たちの前にある。
大丈夫だといいはってはいるものの、怪我のせいでまだ本調子ではないルークは今回は自ら住民たちの護衛に回ると言ってきた。
ルークに怪我を負わせてしまったガイはそのルークの申し出にあからさまにほっとした顔をしていたし、普段であればなにがしかの文句を言ったはずの他の面々も、今回ばかりはガイに気を使ってか特に何も言うことはなかった。
(まぁ、やっと自分の身を顧みない無謀さを反省したようですね)
ちらりと視線を向ければ、何とも情けない顔でこちらを見ているルークの姿。ミュウを腕に抱えて、心なしかチーグルが窒息しそうになっているところを見ると無意識に力が入ってしまっているのだろう。戦闘中ではあるのだけれども、少しだけジェイドは口元に笑みを乗せた。
技を繰り出すアニスにタイミングを合わせてFOFを発生させる譜術をかぶせる。雷のフォニムを帯びたトクナガの一撃に、カイザーディストが大きくぐらりと揺れた。
「やった!」
アニスの声が早いか、派手な椅子が一目散に飛び上るのが早いか。
脱出装置でディストが逃げていく様はあっけにとられるほどに鮮やかで、ある意味ディストらしいと言えばディストらしい。本来であれば捕まえて営倉に放り込みたいところだけれども、今は住民の避難が最優先だ...確実に敵がロストしたことを確認して、ジェイドは背後を振り返る...
いや、振り返ろう、とした。
「旦那!危ない!」
ガイに言われるまでもなく、体は素早く反応し後退していた。それのすぐ後に、亀裂のように地面がぱくりと割れて、見る見るうちにそのずれが広がってゆく。
「しまった...」
やはり、あの馬鹿が派手に暴れたせいでぎりぎりで保たれていた大地が崩落に耐えられなくなったのだろう。数十センチだった割れ目は、見る見るうちにその段差を数メートルまで広げてゆく。
孤立したセントビナーの町の中には、まだ逃げられていなかったマクガヴァンや数名の住民、それにルークが取り残されている。
ルークの身体能力なら、こちらにまだ飛び移ることも可能ではあるだろうが、住民たちを置いてくることはできないだろう。
何も手段を講じることはできないままに、あっという間に亀裂は十メートルを超えた。これでは、ルークであろうとも上ることはできまい。
(くそっ...)
らしくなく、胸中で毒づく。これならば、戦闘に参加させておいた方が良かった。
一瞬、飛び降りるか?という馬鹿のような考えが浮かんだ。
自分が下りたところでどうなるものでもないのに...気の迷いとしか思えない。
不幸中の幸いか、ガイが浮遊音機関の存在を知っていたこと、そしてティアの崩落にはまだ時間があるという情報を頼りに、一度セントビナーを離れることになった。
「待ってろルーク!直ぐに戻ってくるからな!」
必死なガイの声に、ルークが返した穏やかな微笑みが。
どうしてか、皆の胸に残って、離れなかった。
『セカイニスクイナンテソンザイシナイヨ?』
お待たせしました、お久しぶりです。
あまりにも久しぶりすぎてそろそろアビスの流れを忘れかけている自分はどうなんだろう。
もう一回くらいプレイしようかな。確か次6周目くらい?(おい)
無駄にグレード有り余ってますトゥッティも最初から装備してるルークなので無駄に強いですガイ様のほうが遅かったです。
木刀でも楽勝、師匠ごめんなさい。(笑)
ええと、ちょっとずつ本編とずれていってますです。でも、本編と同じくらいのところでそろそろ仲間たちと歩み寄りタイム。
ジェイドが青春臭くなった罠。青春スーツ再装着☆(ネタ解る人いますか?)
2008.1.23up