今日は野宿。
っていうか、こんだけ世界を回っていれば野宿でない日のほうが珍しい。
最近では、アルビオールっていう空を飛べる音機関を貸してもらってるからアレだけど、タルタロスが使えないともう、基本徒歩しか移動手段がない。
一般庶民なあたしとか、まぁガイとか、あとティアとかは平気かもしれないけど、問題は他の人員。
イオン様は言うまでもなく。キムラスカ王族の二人(一人は厳密に言うと微妙だけどね)、それに、死霊使いの異名を持つ大佐だって、かなり顔を知られている。
っていうことはつまり、乗合馬車なんて使おうものなら、誘拐とか、めったにないチャンスにかこつけた(自称)革新派とかがわんさかやってくるってこと。
ただでさえイオン様なんてしょっちゅう攫われるわぽややーんとしてるわで、つまり普段でさえもかなり危なっかしいわけで。
プラスして、開戦中なんてトンデモ状況で、各国の主要人物が一同に会しているなんて知られたらすんごいことになっちゃうし。
そもそも、こんな時期に乗合馬車なんて走らせる馬鹿はいない。
ってことで、つまりはアルビオールを隠しておける(だって、アレの機体は赤。狙ってくださいと言っている様な物だ。見知らぬ音機関何て見つけたら、十中八九破壊か没収が関の山だ、今は)林からエンゲーブの街まで、徒歩での移動は必要。
イオン様がいる以上無理は出来ないし、日も暮れてきたしってことで、あたしたちは早々に野宿の準備をしていた。
っていっても、どこに兵士が潜んでるかも分からないから火は必要最低限しか炊けないし、食事って言っても携帯食料で空腹を満たして、お茶を飲むくらいが関の山なんだけどね。



もそもそと味気ないそれを食べながら、ふっとみやると、赤い髪の男の子...ルークの顔の色は暗闇でもあまりいいとは言えない様子だった。
テオルの森からこちら、ほぼ強行軍というのもあるだろうけれど。
結局のところしゃべれないルークはあまり強固に自己主張をしないため、怪我に気づかれないことのほうが多い。
其れを考えれば、同行者である以上こちらが彼の体調を雰囲気から読み取らなくてはいけない。
ただでさえ、二手に分かれたうちのこちらには、回復役であるティアもナタリアもいないのだから。

(...でもそれって、超過保護じゃない?)

ジェイドも、アニスも一応接近戦もこなすが、基本は中衛もしくは後衛。
つまり前線で戦うのはルークだけであるが(現状では)、その化け物じみた強さは出会ったころよりもさらに磨きがかかったように思われる。
よほどのことがない限り、一個小隊相手にしたところで無傷で生還してくるだろう。
多少病気になったり、怪我をしたりしたところで(この間、ハンデをつけて右腕で剣を使ってガイと手合わせしていたけど、全く持って勝負になっていなかった)彼を追い詰められる人間、魔物など早々存在しない。
アクゼリュスからこちら、多少はアニスも自身のルークに対する態度が軟化したという自覚はあるけれども、それにしたってルークは別段護るべき相手でもないわけだし。
むしろ、こっちが護られていることのほうが多い。ルークは常に、人が傷つくということに神経を尖らせている節があるから。
伊達に幼いころから軍人をやっているわけではない。アニスには、そのルークの行動の根底にあるのが、無償の慈愛に似たものであるということくらいは見抜いていた。
母鳥が子供を護るように、例え身を削っても彼は笑うのだ。『けががなくて、よかった』

(...気持ち悪いよ、あれって、レプリカ、だから?)

血を流して、腕も足も何もかも失っても。
多分ルークは笑うのだ。泣けない代わりに、笑うんだろう。
そして多分差し出すだろう。護るためなら、笑いながら己の首までも。

アニスは、そこまで考えて自分の背中に寒気が走るのを感じていた。
純粋な子供だからこそ、自己犠牲の精神にはむしろ気味の悪さしか感じられない。
与えられる無償の愛といっても、アニスの父や母ともまた違っていることも感じていた。
彼らは、確かにお互いを愛し、そうしてアニスを愛して。
決して片方だけに存在しているものではない。
でもルークはまるで、与えられるものの受け取り方を知らない子供のように思われるのだ。
アニスは、各自緊急時対応の為にもっているグミ入りのポシェットを、我知らず指でいじっていた。
...そもそも、グミというのは所謂普通の菓子の類をさす言葉ではなく、滋養強壮の成分を多く含んだ薬を、携帯して食べやすく、保存がしやすく加工している一般的に薬品に分類されているもののことを刺す。
つまり、多少の疲れや病気にも効く。

(でもさ、きっと、大佐あたりが何とかするよね。...べっつに、アニスちゃんルークなんて今更狙ってないし、わざわざあたしのグミあげなくたって、ルークだってグミ持ってるんだしさ)

前衛もこなすとはいっても、アニスはトクナガに乗って戦うのだから、比較的怪我の割合は少ない。だから、一つや二つ、グミを渡したっていい。
...けど。
ぎゅっと、アニスはいつの間にかポシェットを握り締めていた。
ちらりちらりと、アニスから送られている視線にルークが気づかないはずはないだろう。
気づかないフリをしてくれているのは、多分彼なりの気遣い。
せめて、世間知らずのお坊ちゃんそのものに。

『疲れた!!グミくれよ』

とか、あっけらかんと言ってくれたらいいのに。
そうしたら、軽口をたたきながら、すんなりと渡せるのに。

(そうだよ、ルークが悪い。...別に、しゃべれないからって文字書けば、伝えられるもん)

もうこれ以上考えないようにしよう、とそうきめてルークから視線をそらそうとした。
けれど、その視線の先で、ジェイドと目が合ってしまった。
どきりとして、視線を下に落とそうとした。
なんとなく、後ろめたかったから。

「アニス、すみませんがアップルグミを分けてくれませんか?」
「へ?あ、いいですよぉ」

まさか、ジェイドに言われると思っていなかったので裏返ってしまった声には、どうやら気づかないフリをしてくれただろうジェイドに、アニスは握り締めて若干皺の寄ってしまったポシェットからグミを二個ほど、取って渡す。
「おや、二つもいいのですか?」
「いいですよ、あたしまだあるし」
「そうですか...私も一つほどあれば足りるのですが...ではせっかくですのでルーク、使っておきなさい」
(!!)
自然な動作でルークにグミを渡したジェイドが、おそらくは先ほどからのアニスの視線の意味を正しく読み取っていたことは想像に難くない。
初めて会ったときのジェイドでは、絶対に考えられない行動。
だって、いつもふざけているようでいて、必ずジェイドは周りとは一線を引いていた。常に。
...如何して変わったのかなんて、考えなくたって分かってる。
ジェイドを変えたのは、ルーク。
なんだか無性に悔しくなったアニスは、がっと立ち上がると、ルークの前に仁王立ちになって睨みつけてやった。
口にグミを運ぼうとしていたルークが、ごめん、と口を動かし、そしておそらくはアニスにグミを返すべく手を動かしかけたのを見て、それよりもさきにこちらから手を出してやる。
「しかたないから、アニスちゃんのお菓子、分けてあげるっ!!...前衛に疲れられたら、護ってもらえないもん」
ルークの手のひらには、紅いグミと、そして一口大のチョコレート三つ。
自分の手のひらに乗っているそれと、アニスの顔を交互に見てきょとんとしているルークを見ていられなくて、アニスはぷいっと後ろを向いてまた元自分が座っていたところに戻る。



―――別に、心配とかそんなんじゃなくて。
   ただ、なんとなく、だからね!!

シュガーシュガー



えーと??
なんでアニス??(お前が聞くな)
確かに目指すはジェイルクなんですが、仲間に可愛がられるルークを目指しておりますので、歩み寄り閑話でありました。
多分、年齢が低い分、あっさりと歩み寄れるのってアニスだと思うんですよね
。 そんなことを思いながら、さり気にルークのことしか気にしていないジェイドに注目(笑)
2008/5/6up