何より歩けなかったときから、ずっと彼を見てきたのは自分であるという自負がある。
何よりも近くにいたのだと、そう思っていた。
けれども、いつからか、自分の思っている彼と、目の前にいる彼はどんどんずれてきて。
何でも許して、なんでも見通しているかのような透明な緑を見ているのが辛かった。
知らない、と思った。

初めて、ジェイドに出会ったとき。
ティアとの超振動で国外に吹き飛ばされた彼を見つけたその先にいたジェイドという軍人に向ける彼の笑顔は、一度も、それこそ彼が生まれてから(それは後で知ったことだけれども)一度も自分の見たことの無い表情で。
愕然として、同時にどこか苛立ちを感じた。
どうして、そんな他人に、そんな心からの笑みを向けるのだ。と。

自分がそらすよりも先に、緑が自分の目を見なくなったのはアクゼリュスに向かう前だっただろうか。
今考えてみれば言葉が話せない分必ず相手の瞳を見る癖のある彼は、何か理由がない限り人から目線をそらすなんてことはやってこなかった。
それなのに、自分はただ、彼を責めた。
一度見放して、でもまた彼と旅をすることになって。
...そうして、広がったアカ。自分の刃を受け入れた彼は、
自分の代わりに自分がずっと目をそらしてきた現実を受け入れて。
そうして赦した彼を見たときに、自分がどれだけ傲慢であったのか知る。
彼はどこまでも『彼』で。
変わってしまったのだ、とかそんなことは一切無くて。
ただ本当に、『彼』だったのだと知る。



「ルーク」
こっそりと宿に足を踏み入れようとしたルークの背中に声をかければ、面白いほどにびくりと揺れるのが見えた。多分、抱いている腕に力がこもってしまったのだろう、ミュウが「みぎゅ?!」と若干つぶれた声を上げているので。
それはあまりにも素直な反応過ぎて、ガイは思わず噴出してしまう。
(ほんと、俺は何を見ていたんだかな...)
よく、ガイのベッドにカエルが入っていたり、歩いていたら落とし穴を見つけたり。
そんないたずらを見つけて、呆れたように名前を呼べば、ぎくりと背中を揺らすのだ。
全く、そんなところは変わっていない。
ガイが知らなかっただけで、ルークの本質は、きっと全く変わっていなかった。
そんなことに今更気づいた自分に思わず笑ってしまえば、怒られると思っていたらしいルークは、きょとんと目を瞬いて首を傾げて見せてくる。
自分が欠かさずに手入れを続けている朱色の髪をなでてやりながら(砂埃が入ってしまっているから、今日も手入れをしてやらなくては)、ガイは自分の心がもう、以前のように荒れることがないのを感じていた。
「どこ、行ってたんだ?顔色、あまり良くないな。ほら早くメシ食えよ、今日はお前の好きなエビグラタンがメニューにあったぞ。夜は髪も洗うからな。ちゃんと休むんだぞ」
実際、もう自分がファブレ家に戻ることは無い。
ガイ・セシルは確かにファブレの使用人だけれども、ガイラルディア・ガラン・ガルディオスはマルクトのれっきとした貴族。
だがまぁ、もう身に染み付いているともいえる世話焼き体制は、もう変えようもない。
顔についた泥をぬらしたハンカチでぬぐってやれば、子ども扱いするなとばかりにぷくぅっと頬を膨らませてくる。
「さて、門限を守らない坊ちゃまは、旦那にでもしかってもらおうか」
冗談まじりにいってやれば、さらに頬が膨れて、ぷい、とそっぽを向かれてしまう。(音機関いじりに夢中で生返事を返していたときに、よく見ていた反応だ)
冗談だよ、と言って肩を叩いてやれば、唇を尖らせて不満を示す顔。
そう、それは。
アッシュではなくて、自分が親友だと選んだのが「ルーク」であることで。
自分にとって、最初からルークが『本当のルークの代わり』なんかではなかったことを、示している。
本当は最初から分かっていたことだったのに、随分と遠回りをしてしまったな、と思う。
『ガイのばーか』
音は乗っていないけれども、動いた唇からそう読み取ってガイは苦笑する。
悪い悪い、といえばまたそっぽを向かれてしまう。
けれども、本当に怒ってなどいないことを、ガイは『知って』いる。
少しでもルークの言っていることを読み取りたくて、こっそり読唇術の練習をして。
ゆっくりではあってもルークと直接顔を合わせて(どうしても、一言以上の会話になると、メモ帳に書き綴らざるを得ないために、普通の人間であれば直接に顔を見ることは無い)会話が出来るようになったそのことが、自慢であったことを、今更ながらに思い出す。
人参が嫌いで、ブウサギの肉が嫌いで、キノコが嫌いで。
チキンが好きで、海老が好きで。
剣術が好きで、いたずらが好きで。
勉強がちょっと苦手で、思いのほか几帳面で。
例え今のルークが何か、自分の知らないことで動いているのだとしても、それは揺るがない。
ルークがガイを変わらず傍に(友人で)あることを赦してくれたように。
「ありがとな、親友」
心の底からの言葉を呟けば、びっくりしたような顔で振り返ってきて。
そうして、笑いながら自分とガイの拳をあわせて『言う』。
『どーいたしまして、ガイ!』

いまはまだ、ルークが何を隠しているのかは分からないけれども。
それを含めて、丸ごとルークなのだと、そう、思えたから。



こんにちは、初めまして、親友!






閑話ですネ。
大佐とラブラブ計画と一緒に、一行中でのルークアイドル化計画も勃発しておりますのでガイ様にスポットを当ててみました。v まぁこの方、最初っから基本全力でルーク馬鹿なんですけどね。今回はその自覚編であります。
ちなみにガイ様→ルークは純粋に友愛であります。
親友フラグは譲れません。(何事)
2008/6/3up