きらきらとひかる雪みたいなセル・パーティクルはふわりと体にまとわりついた。
同じ第七音素だからだろうか、まるで母親の胎内(もちろん、ルークにそんな経験があるわけではない、たとえるならば、の想像の範囲の話だ)に包まれているかのような、そんな感覚。
「ご主人様、ご主人様。きらきらして綺麗ですの!」
どんなにティアたちのところに行けといっても聞かずに自分についてきたチーグルは、おそらくその小さな体ではきつかっただろう旅路の文句は一つも言わずに、ルークと一緒にその幻想的な光景を見上げている。...ルークは柔らかいその毛をなでてやりながら、おそらく今戦っているであろう自分の信じるべき人たちに思いを馳せ瞳を閉じた。
(...大丈夫、皆は、強いから。)
本当なら今すぐにでも駆けつけたい。自惚れるわけではなく、自分がいるのならローレライの力を手に入れていないヴァンに勝つことは出来る。
けれども。
ルークは欲張りだから、どうしてもやりたいことがあった。
あの時出来なかった選択を、やりたかった。
その選択の結果が一体何を導きどんなひずみを起こすのか、分からないけれども。
そのために、皆の、そして何より一番愛しい人の傍を、離れた。
すぅっと閉じていた瞳を開いて、ルークはぐっと手に力を入れる。
(...大丈夫、まだ、やれる)
冷え切った手のひらは、この地域の気候のせいだけでは決して無い。
これまで酷使し続けてきた体はすでに悲鳴を上げて、精神も限界直前。気を抜けば倒れそうなときも少なからずあった。
それでも。
それでもルークを動かしてきたのは、ただ焦がれるような衝動。
(もうすこしだから)
やがてルークの手のひらにセブンスフォニムの光が集まり、そしてそれは、ラジエイトゲートの中心部に、吸い込まれていった。



それもまた、愛情の一つ



地殻の降下の終了を示す文字が流れ、ようやっとほっと息をついたルークの後ろから、唐突に声が響いた。
「いやぁ、お疲れ様です」
「??!!!!」
心臓が飛び出る。
いや、飛び出たかもしれない。
むしろ、止まったと思った。
いや、一瞬だけれども確実に止まった。間違いない。
蛇に睨まれたカエルの心地とはまさにこのことだ、と思う。
だって、脂汗がつたって逃げなくてはと思っているのに全く持って体が動かないのだから。
超振動に気をとられて気づいていなかったが、ミュウは哀れ、口にでかいキノコを突っ込まれてふがふがと格闘中...一応、主人に伝えようと努力はしていたようなのは見て取れるが。
ぎぎぎっと、音を立てるようにぎこちなく振り返ればそこには、予想通りというか予想外というか...ジェイドの姿があった。
(なんでなんでなんでなんでどうしてどうしてどうしてどうして?!!!!!)
もちろん、ルークは自分がはかりごとに向いているとは全く持って思っていない。
顔に出やすく当然読み取られやすいのも分かっているからこうして仲間たちの傍を離れて行動していたのだし、ずるいというのは承知で『過去』の記憶を利用してニアミスを避けながら今までこそこそと種まきをしていたのだから。
それなのに、どうしていまここに、アブソーブゲートにいるはずのジェイドがいるのか。
ジェイドともあろうものが、まさかヴァンと戦うことを放棄してまでルークを探しに来るはずが無い。それだけは絶対にありえない。
もはやフリーズしておなじフレーズを馬鹿みたいに繰り返しているだけのルークの頭は、どこか冷静な部分がジェイド一人ぐらいなら逃げ切れると分析しているはずなのに、体がどうしても動かずに固まってしまっている。
「いやぁ、お子様の心配をしたとある飛行士さんから情報をリークしていただきましてね?ヴァンを倒してすぐ、皆さんとの協議の結果、私がこうして不良なお子様をお迎えに上がったわけです」
(ギンジさん?!!!!!)
にこやかな笑顔で言われた言葉に、ルークは思わず心の中で、腕もさることながら人もいい銀髪のパイロットの申し訳なさそうな顔を思い浮かべてしまった...これは、おそらくノエルあたりから通信でずっとルークの居場所を聞かれていたに違いない。そして押し切られたに違いない。間違いない。
多分ジェイドあたりの、むしろジェイドの作戦だったのだろう。自分に全く持って知らせてこなかったところを見ると、随分前にギンジは陥落していたと見える。(...このジェイド相手では、全く持ってギンジを責めることなどできないが)
まさかもちろん、こんなこと想定の範囲外だ。どこか頭の冷静な部分がこんな風に分析はしているものの、大部分は先ほどからのなんで、どうしてのリピートから抜け出せていない。
にこにこしているジェイドから、ありありと怒りのオーラがびしびしと伝わってくるのがまた恐ろしい。こういう笑顔のときは、過去どれだけねちねちといびられたことか。
「私もつくづく、年を取ったと思いましたよ。まさかこんな子供にしてやられるとはね」
じりじりと、こちらに近づいてくるジェイドにとりあえずミュウを拾い上げて抱えておく。地殻降下の超振動のせいで、疲労は極限まで達しているが、それはヴァンとの死闘を繰り広げてきただろうジェイドも同じはず。
すっと、メガネをあげる仕草は、無意識かは知らないけれどもジェイドが本気のときの仕草だ...ルークを見逃すつもりが無いのだろう。
固まってしまった足が動かず、何が起こるのかとぐっと観念して目を瞑ったルークに次に降ってきた感触は。
どこまでも暖かな、抱擁。
ぎくりと体をこわばらせてから恐る恐る瞳を開ければ、間近にあった真剣なジェイドの顔に思わず顔が熱くなるのが分かる。
この『現在』において、ジェイドに抱きしめられたことなど初めてではないだろうか。
「...酷い顔色ですね...子供は本当に、加減を知らないものですね」
なれない根回しなどするからです。と言うその言葉の端々に滲んでいるのは不器用なジェイドの優しさ。
...久しぶりの暖かさに、懐かしさと安堵を覚えてしまい、今度こそ本当に、動く気力もわいてこない。
今まで気力だけで押さえていた疲労感が押し寄せ、眠気すら襲ってくる始末。
(何かすげぇ...ねみぃ...)
何か、ジェイドが続けて言っているのが聞こえるのだけれども、急激に襲ってきた眠気は聴覚をシャットダウン中のようで。
(あー...ぬくい...)
もはやボケボケとしか言いようの無い感想と共に、情けない事ながらルークの記憶は、そこでぶつりと中断された。





...短いですがここで。
ギャグチックなのは多分、気のせいではないはず。
ここで捕まる予定ではなかったはずなのに、ジェイドが本領発揮して家出不良少年を捕獲した模様です。
移動の無茶さとか設定の甘さはノー突っ込みでお願いします。
ジェイルク成分不足に管理人の脳内が悲鳴を上げた結果でございました。(笑)
2008/12/01up