え?そのときの心境かい?
とりあえずは心の中だけでアレルヤ!と叫んだよ。全く状況飲み込めはしなかったけれどね。
その後?そうだな...まずはとりあえず目の前のまだまだ小柄な体を抱きしめたね。だってそうだろう?元々小柄な上に、成長期目前で、先に成長期を迎えた年上の俺と並べばどうやったって上目遣い。その上目遣いで疑問系に「ガイ?」とか言われた日には、ほかにどんな選択肢があるっていうんだ。
身長も体格も当然足りない(え?おつむもだって?...ははは、少しばかり足りなくたってあの持ち前の可愛らしさで全てカバーできるじゃないか)から、当然じたばたと逃れようともがいても全然足りなくて、正直昼間でなければ色々大変なくらい可愛かった。間違いないな。
このときばかりは、余計な預言ばかりを放出してきたローレライとやらに感謝しないでもなかったさ。はは、当たり前だろう?だって。

気づいたら俺の目の前に若干過去の(そう、13歳くらいか?)ルークがいたんだから。

音譜帯に帰った挙句ルークの記憶を持ったアッシュなんていうオリジナルだけを返してよこしたローレライを滅ぼすべく、色々計画を練っていた矢先の出来事だったから、もしかしたら(いや、もしかしなくとも)ローレライの仕業だろうが...正直言ってどうでもいい。v ヴァンデスデルカ?...ああ、まぁ勝手にしたらいいんじゃないのか?だがうまくルークを誘導して、距離を取らせないとな。あの老け面髭野郎なんぞに俺の可愛いルークが毒されたら事だ。
ファブレ家への復讐?...正直、ファブレ公爵と夫人が死のうと死ぬまいとどうでもいいが、殺っちまうとルークが悲しむからな...放置が妥当だろう。ねちねちと言葉攻めで追い詰めたほうが後々まで楽しめるし。
とりあえず怪訝な顔をするルークをうまくごまかして部屋に戻って、鏡を見れば若干幼い顔立ちの自分...そして、ルークほど詳細にというわけでもないがなんとなく惰性でつけている日記に寄ればやはり『今』と俺の中の今の時間軸はずれていて、誰かが盛大なペテンでもって俺を引っ掛けていない限りはここが過去であるのだと知らせていた。
そしてこれがペテンでないということは、何よりも先ほどのルークの存在が知らせてくれる...俺がアイツを見間違うわけないだろう?どこぞのオカメインコなんぞ、オリジナルだとかなんだとか言うが俺に言わせればルークの100の1の可愛らしさも有してはいない。見間違うほうの目が腐ってるんだ、なんだったら俺が取り外してやってもいいと、よく以前は思っていたものだ。
...え?実行はしていないだろうなだって?はは、面白いことを言うな、君は(笑顔)。
まぁとりあえず三日もあれば現状把握はそこそこにうまくいくし、こうやって俺は、再びファブレ家のお坊ちゃん付きの使用人としての生活を手に入れたって言うわけさ。



「ガイ!何ぶつぶつゆってんだよ、キモイっつーの」
「あ、悪い悪いルークお坊ちゃま。どうした?今日は久しぶりにヴァン謡将の剣術稽古じゃなかったのか?」
ルークと呼ばれた赤毛の少年は、まだ幼さの残る顔にありありと不満を浮かべて、自分の使用人であり幼馴染であり、兄のような存在でもあるところのガイという青年を見つけるなり口を尖らせて見せた。
使用人たちの部屋のある一角にガイとペールという庭師の私室があるのだが、そこでぼんやりと空を見上げて何か呟いていたガイに、なんとなく放っておかれたような気がして憤懣やるかたないといった風情だ。
ルークの声で我に返ったのだろう、青い空の瞳をルークに向けたガイが発した言葉に、もともとの機嫌の悪さの原因である事柄を挙げられて、理不尽とは分かりつつもさらに唇がとがるのをとめることができない。
「...だって、ガイは二、三日父上の用事で外出してたから知らねーかもしんねーけど。ダアトで何か事件あったらしくて、それでこっちに来られなくなったんだってさ。...んだよ、せっかく、楽しみにしてたのに...」
ほっぺたを膨らますのが子供っぽいと分かっていても止められないのは、軟禁状態の生活においての唯一の楽しみと言ってもいい剣術の稽古がつぶれてしまったからで。
そうでもなければただ家庭教師が、一部の限られた知識だけを押し付けてくるお勉強とやらや、昼寝か、ペールの庭いじりを見ているくらいしかやる事が無いのだ。
ガイは、ルークの訴えを聞いて一瞬だけ、なんだか『にっこり』ではない(なんだかほのかに黒い)笑みを浮かべ。
それは一瞬で消えて、いつもの、人好きのする笑顔を載せてルークの頭をぽん、となでてきた。(本来であれば不敬罪らしいが、記憶を失ってから言葉も忘れ、ただの赤ん坊だったルークを育ててきたのはほとんどガイであったので、ある程度黙認されているのだ。)
子ども扱いされているから少しだけ不満ではあるのだけれども、なんとなくルークはガイにそうされるのがイヤではない(なんとなく、安心する。父親も母親も、ルークにそんなことをするわけもないから、やるのはガイだけだけれども)ので、形だけ「子ども扱いすんなよ」とは言っておくが、多分ルークが本気で嫌がっていないのは通じているのだろう。ガイは苦笑しながらもなでる手を止めない。ルークもあえては止めない。
しばらくそうしていて、先に口を開いたのはガイのほうだった。いつもどおりのさわやかで白い歯の見える笑いで、
「そうか...じゃあ、今日は俺が相手になろうか?何、俺はお前の護衛もかねてるから、それなりには剣も使えるつもりだし」
と言ってきた。
「まじ?やるやる!」
ガイの申し出は、ルークにとっては願ってもないもので。
だから、ヴァンが来てくれなかった寂しさなど一瞬で吹き飛んだ。(ある意味それは、とても子供らしいとも言える精神構造であるが)
今にもガイの手と木刀を掴んで中庭に走り出さんとしたルークに、苦笑交じりのガイの声が振ってくる。
「はは、まずは奥様か旦那様の許可をもらわないとな?それからだぞ」
「わーってるよ!...んじゃ、俺許可もらってくっから、お前は先に中庭行ってろ!」
自分の稽古用の木刀をガイに押し付けてルークは、わくわくとした気持ちを抑えることができずにガイの部屋を飛び出すと、そのまま母親のいるであろうファブレ夫妻の私室へと走り出したのであった。


「...さすがに骨が折れたな。早々に闘技場を制覇しておいて正解って所か」
ルークが走り去ってしばらく、完全に気配が消えたのを確認してから、なんともどす黒い(間違ってもルークに見せてはいけない。泣くかもしれない)笑みを浮かべたまま、さわやかな口調でガイは一人ごちた。
「悪いな、ヴァン。お前の役目はもう終わりだよ」
今頃、『謎の人物』に襲撃されたオラクル騎士団の中で走り回っているだろうかつての幼馴染を思い浮かべるだけで、笑みが濃いものになってゆくことをとめることができない。
何と言う行幸か、たまたまよこされた使いの用事にあわせて少しばかりの休暇を取って正解だった。こればかりはあの、そろそろ生え際の心配なファブレ公爵に感謝せねばなるまい。
「さぁて、ルークお坊ちゃまの剣術の相手でもしにいきますかね」
そう口にした瞬間には、狂気すら混じる笑みは鳴りを潜めており、いつものさわやかな好青年然とした表情が舞い戻る。
扉を開いて中庭に出れば、すでに準備万端の赤毛の少年が頬を膨らませており、悪い悪いと謝りながら再度、ガイは心の中でアレルヤと唱えた。



華麗なる使用人の華麗なる変貌







絵茶にて、私のガイ様は黒くないよねといわれたので。せっかくなので害様に変身させて見ました(笑)どうでしょう?(特定の方向へ向けた呟き)
我がサイトついに三つ目の逆行設定ですよ、連載になるかどうかは分かりませんけれども。
反応があれば考えます。この場合、ルーク以外の全員が逆行していて本編開始後からすさまじい取り合いになるもよし、真っ黒な使用人がラスボスなど当に飛び越える極悪守護神となって赤毛の子供紫の上計画を実施するもよし(いや、よくないだろう)、レベル引継ぎ(トゥッティ仕様)で最強装備のガイ様に鍛えられてしまった実力は箱入りお坊ちゃまが無自覚に髭いびりを開始するもよしであります。
とりあえずアレですね、一体文中に何回ルークと出てきたのやら?
2008.2.11up