空色を還してください。
いきとしいけるものに、ほんの少しだけ幸せになる力をくれる空色を、還してください。
俺が笑える場所を、還してください。
俺の笑える場所が、輝ける空色を、還してください。




誰も、いない。
記憶の中では、このレムの塔のてっぺんと、そして周辺には沢山の...一万を越えるレプリカたちが居た。
けれど、今はとても静かだ。ここにいるのは、ルークだけ。
...昇降機は壊した。ルークがこの、頂上に上った時点で動力を破壊した。これで、途中まで上ることは出来てもここにたどり着くことなど出来ない。
だから、もう。
もうここで、全部、終る。
「...長かったよなー。七年と少し、よくもまぁここまできたな」
ぱたん、と倒れこんで大の字で空を見上げた。赤黒い霧に阻まれて見えない空。
まるで血の霧に阻まれているようだと思う。...同じ赤でも、ルークの好きなあの赤じゃない。...だから、ルークはこの、障気に包まれた空なんか嫌いだ。
嫌いだから、イラナイ。それでいい。
世界のためなんて、いわない。...皆のためになんて、きれいごとはいらない。
ぎゅっと、手のひらを握りこんでみる。
まだ透けては居ない。きっと、このままどこかに逃げてしまえば、この世界から人間が死に絶えるまで平等に、ルークだって生き残ることが出来る。
...ある意味、それが平等なのかもしれない。それが正しいのかもしれない。
「でもさ、結局、譲れないんだから仕方ないよな。俺は、ジェイドが眉間に皺寄せてるよりも、夕焼け色に髪が透けてる方が好きなんだから」
もしかしたら、今回は大丈夫かもしれないと思った。
もしかしたら、一緒に笑って隣に居られる未来があるのかもしれないと思った。
でも、どうしてもつかみたいものを掴むだけで、もう両手は手一杯で。
自分がそこから零れ落ちてしまうのは、もう止められないし仕方ないことなのだ。
諦めるのではない。けれど、この両手ひとつでつかめるものには、限界があるから。
「手紙、読んでるかな今頃。...怒ってるだろうな。ギンジが気にしないといいんだけど」
ギンジには申し訳ないが、アルビオールが目標地点に着いたときに、眠らせておいた。
一応、周囲に大量にホーリーボトルをまいたから、あとはノエル機の一行が見つけてくれるだろう。それに、アルビオールのドアは閉めておいたから、魔物が入り込むこともないだろう。
「あーあ。もう一回くらい海老マヨ食べたかったなー。チキンライスも、あとりんごも...たまにはマーボーカレーも」
つらつらと、食べ物の名前を並べたところで意味はない。
二回目だから大丈夫だ、とかそんな意識はない。むしろ、今だって震えが止められないくらいに、手が...。
「はは...俺って、本当に中途半端」
泣いたって状況は変わらない。震えたって変わらない。
でもせめて今だけは。
せめて、一人きりの今だけは。
嗚咽と、漏れてくる涙を、隠さなくてもいいだろう。

「...死にたく、ない」



ウスバカゲロウの亡骸



一万人の命の代わりに、ローレライから貰ったかけらはとても小さい。
せいぜい、宝珠より一回り大きいくらいだ。
そこに、あの、哀しい命たちの代わりとなるほどの第七音素。
ゆっくりと、解いてゆけば、息をするのも少し苦しい濃密な音素が肌を滑ってゆくのが分かる。
完全なローレライの鍵は、嘗て気づかずに音素を拡散させる効果を持つ宝珠を体内においていたときよりもかなり効率よく音素を収束できるのが感じられた。
音素は、剣を刺したその、場所の中心に、ひと時でも気を抜けば暴発してしまうくらいに凝縮されて、放たれるのを待っていて。
そしてそのときが終わりなのだと、この二回目の、終わりなのだと、ルークは知っていて。
だからせめて、最後まで目をつぶらないでいようと、思った。

なのに。

(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い)

『あの時』は皆が居た。
今は一人だ。
怖いだなんて叫んでも、誰も聞いていない。
誰も、誰も。

(死にたくない、死にたくない、死にたくない)

助けて欲しいと思ってしまうこの、弱い気持ちはどうして変えられないのだろうか。


震える手で、剣を、握りこむ。
風の音だけが、妙に耳障りで仕方がなかった。





とってもネガティブ?いえいえ。
物語当初のルークよりも実はポジティブなんです。
全部含めてのハッピーエンドは、奇跡がないと起こりません。
ルークは聖人君子でもなければメシアでもないので、できることはやはり限られているべきだと思ったのでこうしました。
でも私はご都合主義のハッピーエンドが好きなので、問題解決には喜ばれる手段ではないですが、論理の通らないご都合主義を乱用してしまうことになりますが、せめてひとつの筋だけは通そうと思ったので。
奇跡は神様に起こしてもらわないと。ですよね?
ハッピーエンドまであとちょっとー。(はいそこー。ホントにハッピーエンドですかとか突っ込まないで下さいませねー)
次回はジェイド視点ですよー。でも次からも遠慮なくダークサイド(笑)
2009/10/12up