*これは、以前展示していた50万ヒット御礼のうち、
もし〜シリーズの作品のみのピックアップとなります。
場面が切り替わりますので、それぞれ別個の短編としてお読みください。



『Is it paralogue? Yes! Of course it is.』

「...」
「...」
毛先にかけて色が抜けるように金色へのグラデーションとなっている赤い髪の少年と。
襟足が少しはねているくらいの短い髪をした青年が。
そろって手元の椀を持って沈黙していた。
そして、その前には同じ亜麻色の髪をした、一人は長い髪にメガネを掛けた紅い瞳の。
もう一人は顎ほどに伸びた髪に薄い色眼鏡を掛けた男が同様の笑みを浮かべて立っている。
後ろでは、そのえもいわれぬ雰囲気に思わず固唾を呑んで見守ってしまっている金髪の青年とマロンペーストのロングヘアーの少女と緑の髪の少年がいたけれども、取りあえず、魔物すらも近寄らせない雰囲気の中心はその四人によって作られていた。
ちなみに現在は国境の砦に向かう途中の、何の変哲もない街道にて休憩と言うまた何の変哲もない状況である。
少し遅めの、朝ごはんを兼ねた昼ごはんを、問題ない手際で調理したウィロウという色眼鏡を掛けた家庭教師から直接にその椀を手渡された瞬間から、このえもいわれぬ空気が漂い始めたのだ。
ちなみに本日のメニューは何の変哲もないチキンとマッシュルーム、それに人参とたまねぎのはいったシチューである。すでにそれを口にした傍観者たち...ガイ、ティア、イオンから見れば旅先と言う材料も質も限定される中でこの味を出すというのはなかなかの腕前であるという認識である。
が、中の材料を見たとたんにだらだらと脂汗を垂らして仲良く硬直し始めた青年sは、本来回復をかねているはずの料理を口にしてもいないのにすでにHPがレッドゾーンのごとき顔色だ。
「...る、ルーク、ルゥ、どうした...?」
思わずたずねてくるガイの声に、二人そろってまるで一心同体のようにびくりと背中を揺らす。
さらにその反応で、目の前のめがね二人の笑みが濃くなるのが嫌が応にも分かってしまって大変怖い。

「さぁて?何処のご子息様でしょうねぇまさかいまだに好き嫌いとは言いませんよねぇ?」
ずい、とメガネを押さえて一歩前に出た短髪のほうの男...ウィロウに思わず一歩下がるルーク。
「軍属かつ成人も越えているような人間がまさか高々イケテナイチキンと人参とキノコごときに多々良を踏んでいるわけはありませんよねぇ?」
ニコリ、と微笑みながらやはり一歩前に出た長髪のほうの男...ジェイドに、ルゥもまたじり、と一歩後退した。
どちらも、ひきつったような表情を顔に張り付けていて、どこか兄弟のようにそっくりである。(それは、彼らを笑顔で追い詰めている二人にも言えることだが)

「十七歳にもなってその小柄な体の理由は分かっていますよねぇルーク?」
「う...く、食う。食うからそのこぇえ顔やめろウィル!」
先に決着がついたのはルークVSウィロウであった。
そもそもがまだ17歳のルークとそして一応年齢不詳ではあるけれども、実は37歳を数えるウィロウである。まぁ、仕方ない結末といえよう。
基本スタンスはわがまま放題の公爵子息であるルークだけれども、この二年間の家庭教師であるウィロウのしつけ...いや教育のおかげかどうか、彼に逆らえないというのが身にしみついてしまっているらしい。ほとんど悲鳴のような声で白旗を上げたルークに、ウィロウがにこりと頷き、さりげなくルゥが隣のルークに憐憫の視線を向けた。
(ルゥからのルークへの同情的な視線に気づいたのは、果たしてウィロウだけであったが)
勢いで頷いてしまったとはいえ、そこそこ努力してもどうしても好きなれなかった材料相手である。...自分が経験してきたからこそ、それはそれで後悔するという結末はすでにルゥには予想がついている。
だからこそ、たとえ子供といわれようと全力で苦手な食材は避けて通ってきたし、それでもそこそこの身長を(うれしいことに、ルゥは現在軍支給のブーツをはいていることもあってルークを見下ろすことに成功している)手に入れたルゥとしては、ある意味「好き嫌いをまかり通すのは大人の特権」を同時に入手したといえる。(間違いなくほめられたことではないが)
なので、にっこりともう一歩進んできたジェイドに対して、次の一歩を踏みとどまることができたといえる。
「しゃーねーじゃん食えねぇもんは!一応二十四までは努力した!だからもういいじゃんか!」
格好悪いといわれようと何だろうと、ある意味開き直ったもの勝ちと言えるだろうか。うっかり涙目になっているあたりで、ルゥの食材へのもはや怯えともいえる本気が伺われてすでに微妙にガイとティア、イオンが憐憫の情をにじませている。
が、そこでうっかりと「では苦手なものをよけてもいいですよ」なんていうような上司でないのは一番、この七年を過ごしてきたルゥ自身が知っているわけで。
「四の五の言わずに食べなさい、片付きません」
精一杯のルゥの反抗を一言で片づけたジェイドは、とどめといわんばかりにもう一歩踏み出した。もはや、ジェイドとルゥの顔はほとんど触れんばかりの勢いである。
蛇に睨まれたカエルのごとき構図は、事情を知らないものが見れば即座におまわりさんでも呼びそうなものだ。(まぁ、そもそも警察的役割を果たしている軍人二人であるのだが)

息を呑むような無言の戦いの後、間もなくルゥの白旗を上げる声が上がった。

「...ジェイド、こえーな」
「...いや、俺はウィロウの方が怖えぇ」
仲良く並んで涙目でシチューを掻き込む二人のそんな会話は、チーグル族のミュウだけが聞いていたとかいないとか。





シチュエーション、ということで食事風景をピックアップしてみました。
お互い、お互いのパートナーの方がまだましだなぁと思っています(笑)
―――――――――――――

『イェソドの月』

「ジェ...ウィロウ?」
「ウィル、で構いませんよ、呼びにくいでしょうから」
ルゥは、その成人しているもののどこか甘さの残る顔立ちに苦笑を浮かべながらウィル、と名前を呼びなおした。そして、夜において星を眺めるのに丁度いいタルタロスの甲板の手すりにもたれかかりながら、ちらりと隣にいる、記憶とは違い襟足ほどで髪を切りそろえた色眼鏡の男...ウィロウの顔を盗み見た。
微笑みを浮かべていばかりのその顔から表情を読み取るのは難しいものであったが、さりとて昔ほどでもない...穏やかそうな表情の下は意外と激情を秘めている事もルゥはすでに知っている。
「なんでだろな...アンタともう一度会えるなんて、思ってもみなかった」
「私もですよ、ルゥ。...可笑しな話ですね、我々は場所も時間も異なっているのに、同じ目的の為に動いてそして再会した...時空すら、越えて。非科学的なもの、憶測でものをいうのは好きではありませんが、仮にローレライの気まぐれだとしてもこれは、奇跡と呼んでもいいのかもしれません」
「はは...そうかもな。アンタの口からそんな言葉聞けるなんて、何だか不思議だけど」
「私も、貴方の身長が割りと伸びたことに驚いていますよ」
「...嫌味か、ウィル」
「いえいえ、思ったことを言ったまでです」
「...まぁいいけどさ。伸びたんだし。...アンタは変わんないな。気味悪いほどに」
「おや?そうですか?...いえいえ、これでも大分節々が辛くなってきましてね、そろそろ隠居させて欲しいほどですよ」
「言ってろよ。...俺、ずっとがむしゃらにフォミクリーの勉強してきた」
「ええ、そのようですね。この間読ませていただいたレポート、中々に面白い着眼点でしたよ」
「...ジェイ...じゃない、ウィルに褒められるなんて、明日雨になりそう」
「...今すぐスプラッシュで降らせて差し上げましょうか?局所的集中豪雨を」
「イエケッコウデスエンリョシマス」
お互い、それぞれこの世界でともに歩むと決めたパートナーはあれど、どこかそれ以上の...いや、それとは異なる次元の何かをお互いに抱いていることには気づいていた。
それはあるいは同郷への回顧の念であったかもしれないし、秘密を共有していることに対する、そしてある『知識』を持っていることによる一種共犯者めいた結託に近かったかもしれない。ともかく、何か目に見えない、安心できるものが存在しているのは確かだった。
くすくす、と喉を鳴らして笑った拍子に、黒く染めた前髪が視界に入って、ルゥはそれを左手ですくってどけた。ここ何年かですっかり見慣れてしまった色。
ルゥが赤を隠しているのと同時に、ウィロウもまた、その紅を色眼鏡の下に隠している。そのことを知るのはお互いだけだという事実も、どこか気安さをもたらしているのかもしれなかった。その気安さは、嘗ての旅の仲間であるということだけではきっと、ない。
「世界ってさぁ...あの時思ってたほど、綺麗でも汚くもなかった」
ただ、波打つ闇の海の果てを見つめながら、不思議と穏やかな気持ちでルゥは言った。
『嘗ての自分』のように、ルークは愚かではない。ちゃんと厳しさも、優しさも教えてもらったのだろう、彼に。...だから、きっと、大丈夫なのだ。
「俺さ、きっとこの旅が全部終ったら、やっと自分になれる気がするんだよ...っていったら、ウィルは笑うか?」
「『人で有る』...哲学ですね。いいんじゃないですか」
「ウィルは?...終ったら、どうする?」
「私は別に、この旅が最終目的ではありませんしねぇ。手のかかる七歳児がいますし」
「はは。ま、俺も軍属だしな。きっと、ジェイドと一緒に駆け回るんだろうな」
「あの方は相変わらずですか」
「うん、ピオニー陛下...こないだ俺の名前つけたブウサギ増やして喜んでたぜ」
「...全く、あの方らしいというか何と言うか」
「きっとさ、ウィルって名前のブウサギも増えるぜ」
「...心底遠慮します」
「ルークとか、アッシュとか、ガイとか、ティアとか...増えるよ、きっと。この先」
「...まぁ、そうかも、しれませんね」
先はもうわからない。でも、それは当たり前のことで、不安に思うことではない。
嘗ての自分に出来なかった、未来(さき)の話をこうも容易く口に出来るようになったことに少しだけ心の中で驚きながら、ルゥはまた、視線を上空...星空へと移す。
其処には昔も今も変わらない星たちが、ただ己の存在を示すように瞬いていた。


「おや、どうしました。ルーク」
「...別に」
ふてくされたような顔のルークに、ジェイドはおや、と思った。
先ほど自分の副官が甲板に上がった事も、その前にウィロウというルークの家庭教師が甲板にいたこともジェイドは知っている。そしてこの少年は甲板のほうから戻ってきた。ということは向こうにいた彼らを見ていたはずだが、ルークは見たところ独りのようだった。
不機嫌そうに膨れているその顔は少し幼く、どこか自分の副官に似ているようでいて、違いを見つけては意外に思う自分がいるところに苦笑してしまう。(顔には出さないが)
「なんか、ウィルとルゥって、仲いいよな...」
どうやら、自分の副官に嫉妬していたようだ。ルークは解りにくいがウィルを慕っており、故にそのウィルと気安いルゥに、なんとなく嫌なものを感じてしまったらしい。
そして、困ったことにルークはルゥの事も嫌いではないので(むしろ懐いている)、面と向かって文句を言うことも出来ないのだ。実に可愛らしい拗ね方といえるだろう。
「気になりますか?」
笑顔で聞けば、すぐに顔を赤くして「んなことねーよ!」と怒鳴り返され、彼は肩を怒らせて船室へと続く廊下に姿を消してしまった。...どうにも、解り安すぎてからかい甲斐がありすぎるのも考え物だ。
ふむ、と口に手を当ててポーズだけの反省をしつつ、ジェイドはふと、甲板へと続く階段を見上げた。(そこからは未だ、先に出たはずの二人の姿は見えない)

「まぁ、今は聞かないで置いてあげますよ。ルゥ」

くすりと笑って、ジェイドもまた、ルークが姿を消した方向へと足を向けた。




ジェイドは感づいています。
―――――――――――――

『貴方の色』

「ルゥって、髪染めてるよな」
ルークの唐突な言葉に、ルゥはとりあえず食事の手を微妙に止めた。
幸い、雑談に花を咲かせていたほとんどの面子にはその言葉は聞こえていなかったようで、当のルークも特に何と言うわけでもなく出した話題であったのだろう、自分で言っておきながらむしろ彼の意識は目の前の好物エビグラタンに向いているようで、全くルゥのほうを見ては居ない。
隣に居たからなんとなく話題を出してみた。ソレくらいの認識なのだろう。
いやまぁ、ルークに話しかけられるまでそもそもルゥも海老に夢中で全く周囲の雑談すら耳に入っていなかったのだから、お互い様といえばお互い様なのだが。(海老が出るとルゥとルークは食事中物凄く静かになるので、そもそも皆話しかけないというのが最近の暗黙の了解になっているらしいが彼らはその事実を知らない)
一瞬、まさか染め方が甘くて地の色出てしまっていたのかとひやりとしたが、ルゥはとりあえず平静を装いつつ、務めて気にしていない様子でルークに聞いてみた。
「何で、そう思う?」
肯定でも否定でもないその問いかけに、一瞬グラタンの皿から視線を外しルゥを見上げたルークは、すぐにグラタン皿に視線を戻しつつ、何でもないように答える。
「黒、似合ってないから」
なんとも単純明快な答えだった。
思わずなるほどと納得してしまうほどには、下手な理由よりもむしろ説得力がある。
「なるほどな。...んー、まぁ。染めてるけど」
ここまですっぱりと確信を持って言い切られてしまうと、かえって否定しても無駄だということをこの何年かの...まぁ、色々濃い面子にもまれた日々の学習がルゥに諦めを教えていた。嘗ての自分であればおろおろとしてボロを出していただろうが、ある意味成長したといってもいい...のかもしれない。
大切に取っておいた海老を一つ口に含むと、思わず顔が綻んでしまう...昔から、好きなものは最後に取っておくタイプであるルゥがなんとなくルークの皿を見れば矢張りルークの皿にも海老だけがころりとよけられていて大切に残されている...ああ、やっぱりこいつ俺だなぁと思う。(口には出さないが)
「何で、染めてんだ?」
「んー、まぁ大人の事情って奴...ってわけでもないけど。地毛、目立つ色だから。諜報とかもやるうちの部隊には向いてないってのがあるかな」
嘘ではない。ソレも理由の一つではある。ただ、地毛が如何して目立つのかと言う理由に関しては言及していないしするつもりもないが。
ルークは、ルゥの答えにふぅんと気のない返事を返すのみだ...納得していないのかもしれないし、もしかしたらこれ以上聞いても答えてはもらえないと諦めているのかもしれない。...最も、ルークの心はルゥには分からないけれども。
一体ウィロウとガイがどんな育て方をしたのかは知らないが(...嗚呼頼むからあの性格の継承者になるのだけは止めてくれと願っていたら幸い、性格にそれほどの違いは見られなかった。喜ぶべきところだろう)、ルークはわからないことがあればどんどん質問してくる。答えられるところは答えて、分からないところは他の人に説明を任せるけれども、時折こうしてぎくりとするような鋭い質問が飛んでくるのだから、若干ルークの背中に件の家庭教師の影を見ずにはいられない。(将来が、若干怖い気もする)
なんとなく会話はそこで途切れて、再びお互い海老に没頭する。
かちゃかちゃと食器の音だけがなんとなく耳につき、そしてそろそろ皿の中身の空になろうというところで。
「ウィルも」
また唐突に、ルークがポツリと漏らしたその名前は、彼の家庭教師のもので。
そして、嘗てルゥが『ルーク』であったときに『ジェイド』であった、仲間の今の名前。
彼を呼んだわけではないのだろう。『も』と付けられたそれが恐らくは先ほどの会話の続きなのだろうというのはなんとなく予想がついて、残り少なくなった海老を口に放り込んだルゥはきちんとルークのほうへと首を向けて先を促してみる。
矢張り最後の一つの海老にフォークを突き刺して口に運び、暫くして嚥下したルークは、特に感情を込めるでもなくただ、呟くようにこぼした。
「ウィルも、目の色、隠してるよな」
「...」
ルゥはそれに答えることが出来なかった...ルゥはウィロウの色眼鏡の下にある瞳の色を知っているし、隠している理由が己と同じものであるという事も理解しているからであるが。
その質問を呟いたルークの横顔が少し寂しそうに見えたのはルゥの目の錯覚ではないだろう...かつてを振り返ることが出来るからこそ、ある程度の理解が出来る。嘗ての自分が、ヴァンに何か教えてもらえないことがあるたびにえもいわれぬ疎外感を感じたのと同様、目に見えて『隠している』ことに理由を尋ねられないことが、なんとなく物寂しいのだろう。ルークにかかわる人間はまだ少なく、故にルークに締めるウィロウの割合は大きいのだからなおさらだ。
ウィロウの口から語られないものを、ルゥが語ってやることは出来ない。
その代わり。最後に取っておいた残り二つの海老のうち、一つをころんとルークの空になった皿に放り込んで、最後の一つを口に入れたルゥは、同時にご馳走様。と告げて席を立つ。
転がり込んできた海老に少し驚いたように顔を上げたルークは、ルゥに何か言いかけて口をつぐむ。...ありがとうと言おうとしたのかもしれないし、なんで?とたずねようとしたのかもしれないけれど。

「いつかちゃんと、俺もウィロウも教えるよ。...すぐには無理だけど。約束する」

ルークにだけ聞こえるように言った言葉は、まるで信憑性のない口約束でしかなかったけれど。
頷く代わりに突き出されたルークの左の小指に自分のソレを絡めて約束だぜ?といわれてしまえば、約束だ。と返して笑うほか、なかった。




お兄ちゃんと弟(笑)
ごめんなさいジェイドとウィルが全く話していませんでした;;
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