グレーのストライプの入ったシャツに、黒いスーツ、ワインレッドの細身のネクタイ。
見事なストレートの黒髪は背中まで伸びて、うなじのあたりでくくられている。
ホストのようだと言われても納得できるいでたちである。
口元には・・・控えめに言ってアイロニカルな、ざっくり言えば大変好戦的な笑み。
でもって、ブランド物のサングラス。
・・・なぜかその恰好で鉄パイプをかついでいるのだが。

そんないでたちの若い男をここいらで見かけたら、とりあえず「ああこいつそういう職業の奴だろうな」としか思わないだろう。そんな男だった。
けれども、彼から所謂下卑た印象を受けないのは、ひとえにその青年の顔立ちがやけに整っていること・・・そして、どこかスマートさをうかがわせる動きをしているからだろう。
彼のいるその一か所だけが、やたら涼やかに感じるほどで。
180もの長身もあいまってか、とかく存在感のある青年であることは間違いがない。
が。
現在、その青年は一見して所謂な職業だと解るやたら人相の悪い人々に囲まれていた。
その中で、彼のいる一か所のみ涼やかな印象を崩させないというのは、実のところ青年がそのモデルのようないでたちからは想像もできないほどに肝の据わっていることを表しており。
怒りをにじませている男たちの中で、楽しげに笑って見せているあたり、むしろ心臓に毛が生えていると断定できるかもしれない。
あるいは。
青年の腐れ縁に言わせてみれば、『つまり今から暴れたい子供と変わりません。大きくなって行動範囲が広がっただけ性質が悪いんですよ』と言われるように。

「おう!てめえここいらのシマで好き勝手やってくれたそうじゃねえか!」
「痛い目みねぇとわかんねぇか?あぁ?!」

お約束なセリフは、けれどもお約束であるからこそ迫力がある。
もしも、少し臆病な人や女性、子供であったら泣き出してしまっただろうほどだ。シンプルに殺気が叩きつけられているのだから、心臓が弱い人にはひとたまりもあるまい。
ましてや、相手は素手ではない・・・人によっては刃物、人によっては銃、人によっては木刀などとにかく全員が武器を手にしてこちらを取り囲んでいるのだから。
常人ならば、間違いなく『死亡フラグ』と認識する場面だろう。所謂ヒーローが都合よく助けに来てくれるような僥倖など、それこそ天文学的確率でしか起こり得ない。
・・・ただし。
所謂そのピンチに陥っている『ヒロイン』が、やたらハイスペックでない場合に限るのだが。

サングラスを丁寧に折りたたみ、胸ポケットにさした青年は、そのサングラスの下に現れた紫黒の大きな瞳を楽しげに揺らして見せた。
サングラスの下にあった、いっそ美女といってもいいような美貌に微笑まれて、一瞬ぽかんとなった男たちは、その一瞬が命取りになったと後で悟ることになるのだが。
それはあるいは鉄格子のなかで有り、あるいは病院のベッドで有ったりするので。
現在において、それに気づけた人間は一人もいなかった。

「腹ぁ、括れよ?」

最上級の微笑のあと。

後々恐怖とともにマフィアたちの間で語り継がれることになる、鬼神が降臨した。



僕らの街のおまわりさん☆ -おおあばれおまわりさん-



「あはははー、それで始末書?たーいへんだね青年も」
「うっせぇよ・・・あの後、フレンにもグダグダグダグダ説教されて、最悪だっての」
『最近ようやっと落ち着いてきたかと思えばまた君は無茶ばかりして!』・・・腐れ縁の声が音量そのままに頭に響いて、ユーリはこめかみを押さえて思わず顔をしかめた。そろろそろ古典的表現だけれども耳にタコができそうだ。
ちなみに、ここはユーリが結構(スイーツを)気にいっている喫茶店のカウンター。
馴染みということで、閉店時間をちょっと過ぎているが、どうしても始末書と格闘した頭に良質なスイーツを補給したかったので滑り込ませてもらったのだ。
店長は、不定期に店に出てくるので毎度会えるとは限らないのだが、出てきているときにはこうして会話をするほどにはなじんでいる。見た目は胡散くさいおっさんだが・・・胡散くさすぎるので逆にまあいいかと思わせるほど・・・、これでいて結構情報通であり、ここらを束ねるギルドのドンの右腕であることも知っているので、どうせ隠しても先に耳に入っているだろうことくらいは、ユーリもさらりと口にしてしまう。
(この場面、真面目なエリートコースの腐れ縁に目撃されようものなら大目玉だろうが、実際の実際は結構セーフだったりする。もちろん彼らには知る由もないが)
片づけということで食器を拭きながら、無精ひげのどこにでもいそうなおっさんは、ははは、と笑って見せる。
「結構暴れたみたいじゃないの青年。そりゃあ怒られるって」
事の起こりは、武器の密売をしているマフィアギルドへの潜入捜査をユーリが命じられたことにあった。
出来るだけ若い方が入り込みやすい、とのことでそもそもが自分ともう一人の腐れ縁に白羽の矢が立ったのだけれども。
明らかにまじめ一辺倒の腐れ縁ではそもそも街の入り口で門前払いを食らってしまう。
というわけで、別に全く嬉しくないのだが、そういう恰好をするとシャレにならないと常日頃赤毛双子の先輩にも言われているユーリにめでたく決定したのだ。
・・・までは、良かったのだが。
そもそも、自他ともに認める型破りのユーリが、大人しい潜入捜査を出来るわけもなかった。
まぁそもそも、おとなしいとマフィアギルドに潜入捜査なんて絶対にできないのだが、そこらへんはおいておいて。
証拠をつかんであとは一斉検挙、突入というところにきて、こちらの情報が漏れてユーリ単独が囲まれてしまったのだ。
何故かユーリが警察だということはばれなかったようだが、他のギルドの回しものだと思われたらしい。
裏切り者には鉄槌を。
それがギルドの掟であるからして、当然ユーリはその日の夜に十数人に囲まれた。
「まさか、拾った鉄パイプ一本で本職のヤーさんのしちゃうなんて思わなかったわー」
はいお代わりあげるよ。どうせ店じまいだからね。と出されたクレープに遠慮なくかぶりついて、ユーリはもごもごと口を動かしながら眉をしかめた。
いや、あれは不可抗力というのではなかろうか。そもそも信用させるためには武器なんて持って歩けなかったのだから当然ほぼ丸腰であったのだし。
だから、その点についてはそこまで叱られなかった。
あくまで、「一人で応戦する事態に陥った経緯について」は、だが。
「普通、応援呼ばない?」
「結果的には来ただろ、うるさいのと相棒が」
アイスティーをすすりながらユーリがうめけば、でもそれって青年が呼んだわけじゃないでしょー?と、ユーリが後で散々やはり言われた言葉をかけられた。
まぁ確かにそうなのだが・・・警察に入る前はちょっとやんちゃだった時期もあったユーリとしては、うっかり昔の血が騒いでしまっただけだと主張したい。
・・・残念ながら、普段は結構寛容な直属の警部にすら、苦笑して頭を始末書の山ではたかれる結果に終わったのだが。
「・・・でも、よく銃持ってる相手に、怪我しないで済んだねぇ」
言われて、とりあえずユーリはたっぷりした間のあとにきょとんと目を瞬いて見せた。
「んなやつ、近くにあったバイクぶんなげて真っ先につぶしたぜ?」
「・・・」
だめだこの破壊神。
一応やんわりと反省を促そうとしていたマスターことレイヴンが、ひっそりとそれをあきらめたことなど、もちろんユーリは知る由もなく。
ただあとは、目の前のクレープに集中して、その少し幼いべらぼうの美貌を、ふにっと緩ませたのであった。





つまり、大暴れしているユーリが書きたかった。
あと、サイバー担当のリタっちも出したいです。ユーリ止めにはいって、なんだかんだ自分の方が暴れちゃうフレンとかも。
ちょっとユーリがあほの子なのは仕様です。
2010/8/1up