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*なんか、こう、『家政婦は○た!』みたいなノリを目指した結果非常に残念なもの(家政婦...むしろおさんどんしかあっていない)を作り上げた感があります。
もしかしたらこれが今年最後の更新になるというのに...反省の色くらい見せればいいのに...(ほんとにな)


酒は飲めども飲まれるな


それは、聖夜を凛々の明星プラスいつものメンバーで、さながら内輪パーティのようににぎにぎしく過ごした翌朝。
それぞれ、一部メンバーは思い切り自分から臭う酒に顔をしかめながら、はて昨日は何があったのだろうとそれぞれの寝どこで首をかしげていた。
箒星の宿の部屋も借り切ってのパーティだったので、ユーリが自分の部屋からのそのそと顔を出せば(既に、ここまでで隣にはカロル、足元にはおっさん、ついでいつもの場所にはラピードというメンツを通り過ぎている)、ちょうど女子の部屋から顔を出してきたジュディスとはち合わせた。
彼女も確かそれなりに酒はたしなんでいたはずだが、まぁいつも通りの涼しげな顔をしている。
というか、冬なのでそろそろいつも通りの恰好をやめてくれないと別の意味で目のやり場に困るのだが。
ユーリがへそ寒そうだなぁと色気の欠片もない感想を抱いていたところで、ジュディスがにっこりと、はい。今日のお仕事。と言って、騎士団の下っ端の制服をユーリの手に握らせてきた。
「...は?」
少し首を傾げただけで相当にガンガンと痛む頭は考えなくても二日酔いである。
そもそもそこまで酒に強くないユーリは普段全く酒に手を出さないのだが(だって、そんなもの飲むのであれば、むしろ甘いジュースなどを飲んだ方が自分としては良いのだし)、昨日はうわばみでかつあまり空気を読めないフレンと、ざるで、ついでに空気を読んでいながらあえて突き進むジュディスと、まぁそこそこ飲めるのだけれども即座に酔っ払ってくれるおっさんに囲まれた結果、馴れない酒を飲む羽目になってしまったのだ。
ちなみに。
ユーリに無理に酒をすすめたのがおっさん、「同じお酒を皆で飲むことで結束が強まるっていうの騎士団で習わなかった?」とおっさんに乗せられて、生真面目な顔でユーリのコップに酒を注いだのがフレン、「あら、私飲める人は手を抜いちゃいけないと思うの」と、いやだからこちらは飲めないのだがと突っ込みたいようなセリフをかまして、結果おそらくは一番飲んでいただろう人物がジュディス。
あの旅を経て、確かにジュディスも二十歳を超えて合法的に酒が飲める年齢なのだから何も問題はないのだが、それにしてもどうして彼女がここまで酒に馴れているのか...まぁ、詳しく聞いたってきっと、微笑んで流されてしまうだけだろうが。
さて、話を戻そう。
先ほどから、ニコニコとしたジュディスがユーリに押しつけてきているのはどう見てもデコボココンビが着ている例のアレである。似合わない似合わないと大絶賛(?)された後、ユーリの心の中においても、パーティの衣装的な意味でも奥底にしまわれていたはずのそれ。
「あら、約束は守らないといけないと思うわ...。あなた、昨日の夜、フレンと『じゃんけんで僕が勝ったら、一週間騎士団で働いてもらうよ!』『おう!いい度胸だな!こっちが勝ったら、一週間俺の好きなだけ甘味おごってもらうからな!』って言って、じゃんけんで負けていたじゃない。」
「...あー...何やってんだ昨日の俺」
ちなみに、騎士団で一週間働いた分の給料と、ユーリが一週間全力で食す甘味の対価を考えると、割とつり合う(むしろユーリの方が高い欲求をしているような気もするが)あたり、なんというか酔っ払っていても気の合う二人である。
ちなみに、ジュディスが昨日さらに面白がって契約書を描かせてくれたおかげで(何故か、ちゃんと自分のサインとフレンのサインが入っており、おそらく酒は入っていなかっただろうカロルやエステルなどが、勝負の結果を見守った旨のサインも同様に入っている手の込み入りようだ)、やらないとは最早言えないレベルの状況が見事に出来上がっている。
...まぁ。確かに今週は別にギルドの用事も入っていなかったけれども。
ニコニコとしているジュディスの顔に、あからさまに面白がっている色がさしているのが読めるあたり、彼女との付き合いが長くなったことを喜ぶべきか、それとも彼女がこんな子供じみたいたずらを仕掛けるあたり、彼女が大分打ち解けてくれたことを喜ぶべきか。
...まぁそれよりも、今回の彼女のターゲットにまんまと当てはまってしまった自分のうっかり具合を嘆くべきかもしれない。
ユーリは嘆息して制服を受け取ると、もう一度それを嫌そうに眺めた。
散々似合わないと言われている制服を下町から着ていくのはさも目立つし、下手をすると下町の人間の質問攻めで動けなくなるだろうから、城に忍び込んで(正面から入るという選択肢は欠片も存在しない)エステルかフレンあたりに部屋を借りてなんとかするしかないだろう。
「じゃあ行ってらっしゃい、フレンやエステルによろしくね」
「あ、エステル帰ったのか」
「ええ、今週はお城で政務があるのですって」
「...」
何故酒を飲んだ間は気が大きくなってしまうのか。これからなるだけやはり酒には手を出すまい。
普段らしからぬ失態に、ユーリは心の中で大きく決意をしたのだが。
「わふ」
あきれたように鼻を鳴らしたラピードが、ぱたりと一回しっぽを振ってその決意を横に流したようにも思われた。


で。
まぁそのまま窓からフレンの部屋に侵入したまではいい(注意:良くない)。
昨日のことをきっちりと覚えていたフレンによって、着替えたあとの身だしなみチェックまで受けたのも、まぁ良いとしよう(そのあとに即座に着崩したが)。
が。
どうして自分は、食堂に押し込められているのだろうか。
まぁ、即座に鎧を脱げと言われたのもいいだろう。
ついでにその場でエプロンを渡されたのもいいだろう。
どうにも大勢の多飯ぐらいを賄うには人員的にがらんとした食堂の事情を聴けば、食堂のおばちゃんたちが昨日集団で貝に当たってしまったらしく、料理をつくれる人がいないとのこと。
『せっかくだし、僕も手伝おうと思ったんだけど、ウィチルが止めるものだから。』
残念そうな顔をして言っていたフレンの言葉を思い出して、まぁ騎士団の連中は一部むかつく奴らもいないこともないが、それにしたって全滅されてしまっては有事に全く対応できないに違いないとユーリは腹をくくった。
で、現在ひたすらに切って刻んで焼いての繰り返し(注:料理)なのだが。
何故か現在、騎士団の食堂は異様な雰囲気に包まれていた。
否、既に食事は始まっていて、皆ユーリの料理に舌鼓を打っているのだが、混んでいる時間帯で有るのにもかかわらず、中央の1テーブルの周囲はまるでそこだけ何か力場が働いているかのように人がいない。
その中央部分、とりあえず一人目は笑顔のまぶしい我らが団長代理のフレン・シーフォ。
まぁ、フレンはそもそも周りとのコミュニケーションを大切にするためにできるだけ食堂で飯を食べるようにしているようだからそこまで珍しいこともないのだが。
「...」
無言で鍋を振りながら、ユーリはフレンの隣でニコニコとスプーンを動かしている人物に視線を移動させた。
何故かそこには、現副帝たるエステルの姿が。
まず、この場所にふわふわとしたピンクの髪の明らかに貴族風の(否、風ではなく確実なる貴族であるが。しかも大の付く)お嬢さんがいるだけで、周りの騎士団員たちは近寄りがたくなるだろう。
副帝とはいっても、そこまで表舞台に立つことはまだ多くないし、それに知っている人は彼女がユーリやフレンと一緒に一時期星食みを滅ぼすための旅をしていたことを知っているので、まぁこの場にいることもそこまで首をかしげることではないのだろう。
が。
ユーリは、先ほどみた光景が幻で有るように、珍しく祈るような気持ちで一瞬目をつむってから、エステルの隣に視線を映した。
...やはり、いる。
はぁああああああと深くつかれたユーリのため息に、おそらく見習いだろう今回の事態にユーリと同じく借り出されている若い騎士団員の憐憫の視線が刺さる。
...畜生誰かあいつら止めてくれ。
何故現皇帝陛下まで、当たり前のように席に座って、あまつさえ「ユーリさんの料理はうわさ通りおいしいですね」なんてのほほんと笑って飯食っているのだ。
言っておくが、ユーリの料理は所謂家庭料理なのであって、貴族のお料理のように所謂何かこっているというよりはいかに限られた材料でおいしく作れるかを重視している純朴なものである。
間違っても普段から良いもの食べているはずの皇帝陛下のお口に合うものではないはずなのに、何故シチューのお代わりまでしてくれているのか。
「ユーリ、悪いけどお代わりもらってもいいかな」
しかも、何故その皿を騎士団長代理自らこっちに運んでくるのだ。
ユーリは、今持てる殺気のすべてを視線に込めて腐れ縁を睨んでみたが、ふわりとした苦笑で。
「ユーリのことをうっかりとこぼしたら、どうしても君の手料理が食べたいっておっしゃってね」
と言われてしまった。
...いや、食べたいとおしゃっちゃったからって、ほんとに騎士団の食堂まで連れてくる馬鹿がどこにいる。
いや、実はこのニコニコとしていて押しの弱そうな陛下だけれども、もしかしたら意外と押しは強いのかもしれない...が。
「一週間ユーリさんが食堂を担当されるのなら、エステル、是非毎日通いませんか?」
「もちろんですヨーデル!あ、ユーリ私今度コロッケが是非食べたいです」

「お前らいいかげんにしとけっ!!」

ついに堪忍袋の緒を切らしたユーリが、それでも反射的にお代りのシチューをよそってしまったのはまぁ御愛嬌と言うところだろうか。


この一週間の仕事の後、結果的に「皇帝陛下も認めた伝説の味」としてユーリの料理人としての名前が有名になり、凛々の明星に妙に料理関連の依頼が飛び込むようになったのはまぁ...もう少し先のお話である。




というわけで。
最初は家政婦○見た!っぽいのを描くつもりでいたのに、天然さんたちのせいでユーリがただのおさんどんになりました。
久しぶりに描いたから、彼らの口調を忘れている件...
皆さま、良いお年をお過ごしくださいませ!
2010/12/27