注意:
・現代パロ。
・おっさんとユーリ
・おっさんとかユーリが会社勤めでご近所さんなパロ
・事務なユーリが嫌な方は回避。
・ごめんなさい管理人まだ働いていないので、リアリティについては追求しないで下さい。
(あ、さ...)
二個目の目覚ましが音を立てて、ユーリはよろよろと枕元に手を伸ばした。そして、若干の憎しみをこめて目覚ましのスイッチを止める...訂正、殴る。
が、音は鳴りやまない。まだ覚醒には程遠い頭の回転速度ではその理由を探るのには足りないわけで、その間も頭痛さえもよおすようなベルの音は鳴り響く。
「...そ、だ。テーブルに...」
勝手に止まってしまえばいいのに。そんなバカなことを考えながら寝汚く毛布をかぶってしばらく、ようやっと理由に思いいたって顔をしかめた。あまりにも朝が弱い自分が効率よく起きるためにと、最近二台目の目覚ましを遠い場所に置くことにしたのだ。寝室とリビングのつながるこの自室において、ベッドを下りて少しばかり距離のあるそのテーブルにある目覚ましを止めることは物理的に不可能である。
実のところユーリは低血圧であって、どうしても朝が弱いのは仕方がない。それでも朝の国道は五分単位で道路状況が変化するわけで、五分の寝坊が大きく響く。
「わふっ!!わんわんっ!!」
あまりにもぐずぐずしている飼い主を起こすために、次はナマモノ目覚まし...もといラピードが吠えだした。ペットOKのこのマンション、さすがに朝の早くから動物の鳴き声は迷惑だと理解しているこの賢い犬は、控えめの音量でしかしユーリの耳元ぎりぎりで鳴くのだ。これにはさすがのユーリも叩いてスイッチをオフにするわけにもいかず、ようやっともぞもぞと起きだすのであった。
「...うー...あ、今日ごみの日か...出してかねーと」
この朝の時間に気合を入れる全国のOLの皆さまには申し訳ないほどに、ユーリの髪は何度か手櫛でとかすだけでさらりと癖もなく背中に流れる。
ばしゃりと水で顔を洗い、コーヒーを入れてミルクと砂糖をこれでもかとぶち込みトーストが焼きあがるころには何とか半分しか開いていなかった瞼も何とか八分目まであけることに成功。ラピードの餌入れにドッグフードと、そして水を足してやりながら、ネクタイを首に引っかけた。
「...うし、行くか」
シャツにスラックスにネクタイ、ジャケットを引っ掛けるころには瞼もきっちりと開かれて、留守番のラピードの首を何度かなでる余裕も出てくる。ラピードのほうも、親愛をこめてユーリの頬に鼻先を押しつけてきた。
少し硬い、夏毛へと生え換わりかかっている青みを帯びた毛を手で梳くようにしながら、最後にもう一度ぐいと強めに首をなでて、そうして家の扉に鍵を掛けると、ごみ袋一つをつかんで駐車場へと向かった。
と。
「おんやぁ、せーねん、おはようさん」
「...ああ。おはようさん。おっさん髪ぼっさぼさだぞ?仕事間に合うのか?」
ちょうど、二つ隣りの部屋から、お世辞にもこぎれいとは言い難い、三十代半ばほどの...この春に前の住民が出て行ったと入れ替わりに入ってきたのだが...レイヴンという男が顔を出していた。
何の仕事をしているのかはわからないが、ユーリが朝に出るころにようやっとぼさぼさ頭で起きだして、新聞を取り出すのを出かけるユーリと鉢合わせするというのは割とよくある。
朝が遅い代わりに、ユーリが仕事から帰宅するときにこの部屋の明かりがついていることはまれで、どうやら見た目にそぐわず責任のある仕事をしているようである、が。
どうにも、よれよれのシャツにぼさぼさの髪、無精ひげ、とここまでを見てしまうとその予想というものも首をひねりたくなってくるから不思議だ。一応、ユーリも堅苦しいのは好きではないが出社はスーツに準ずる格好をしいるし、社内では制服である。
(この分じゃ、自分でアイロンとか、絶対やってねーよな...)
未だに、おはよう、たまにこんばんは、休日はこんにちは、それくらいのあいさつしか交わしたことがないので、ユーリがこのレイヴンという男について知っていることと言えば、多分社会人、あとは車は持っていないので移動手段は電車であるらしいということくらいだ。
「あ、そうそう青年。甘いものって好きかしら?」
「ん?」
いつもならば、ここでいってらっしゃぁい、という間延びした声で会話は終了するのに、今日は少しばかり違っていた。
普段は四台の目覚ましと、最後にラピードで何とか起きれるのだが、今日は二台目の目覚ましプラスラピードで起きることができたので時間には余裕がある。なので、ごみ袋を片手に持った袋ごとレイヴンのほうを振り返れば、なんとも気の抜けた顔の男の姿。
ひらひらーと手を振って見せるレイヴンは、振り返ったユーリににかりと笑うとあのさぁ、と皮切りの文句。
「頂きもんなんだけどね、おっさん甘いもの苦手でさぁ。よかったらもらってくんない?日持ちしないみたいだし、悪くしちゃうのもあれだしね。チーグル堂のシュークリーム」
「え?!あそこのシュークリームって限定品じゃねーか!...マジでいいのか?」
ユーリは、自他共に認める甘党である。週末にはケーキを買って食べるのが楽しみの一つであるのだが、チーグル堂のシュークリームはなかなかに食べられない(なにせ、限定品であるのだから、働いているユーリにはなかなか手に入れることができない)。それを譲ってもらえるといわれれば、足を止めてしまうのも当然のことであり。
が、ふと腕時計を見ればそろそろ出なければならない時間である。どうしよう、と視線をうろつかせれば、おそらく此方の迷っている理由が分かっているのだろう。今日はおっさん早いから、帰ったら持ってくわよ。と一言。
「さんきゅ!」
「いってらっしゃぁい」
特に変化がないはずの、月曜日。
目覚まし二つぶん、早く起きれた月曜日。
いつものように、間延びした声に見送られ、ユーリは改めて駐車場につながる階段へと足を延ばしたのであった。
「おはようございますユーリ」
「はいおはようさんエステル。お、経理から伝票回ってきてんな」
そうなんです。と少し困ったように眉を寄せた後輩のエステリーゼの言葉に自分のデスクを見れば、週の頭にしても控えめとは言い難い量の書類の山。思わず苦笑していると、ポンと同僚から肩を叩かれた。
ごきごきと肩を鳴らしていると、気を利かせたエステリーゼがココアを入れてくれた。(エステリーゼのみならず、ここの同僚たちにはユーリが甘党なのは知れ渡っている)
さんきゅ、と一言断ってからそれに口をつければ、インスタントにしてはなかなか気に入っている味が、仕事の量に少しばかり減少していた気力を補てんしてくれる。
それに、今日は帰ればチーグル堂のシュークリームが待っている。子供っぽいといわれるかもしれないが、こと甘味に目のないユーリとしては、ポテンシャルを上げるにはそれで十分なのである。
おし、やるか。と気合を入れて椅子に腰かければ、ちょうど自分用の紅茶を席に運ぼうとしてたエステリーゼが少しばかり目を丸くした。
「ユーリ、今日少し嬉しそうです?」
「ん?あぁ。まぁな」
軽快にキーボードをたたくユーリの背中に少しばかり首を傾げてから、エステリーゼは自分の机にもある伝票の量を思い出して、がんばります!と気合を入れて席へと向かっていった。
「ローウェル君、悪いんだけど、取引先の社長さんが見えてるの。少しお待ちいただくから、お茶を出してきてもらってもいいかしら?」
午後。
少し仕事の終わりが見えてきてほっと一息ついていたころに、上司であるカウフマン女史に言いつけられてユーリは席を立ちあがった。
この会社は、主に商品の中継ぎを行っているので、それほど大きい会社ではないが取引をしている会社の数というものはなかなかに多い。
此方から取引先に出向くこともあるが、向こうから出向いてくることも珍しくない。
こういった仕事を頼まれやすいエステリーゼは現在、真剣な顔をして伝票と向き合っているので手を止めさせるのも忍びないため、ユーリに仕事が回ってきたのだろう。
「失礼します」
「ああ」
一礼して、茶と茶菓子を出せばありがとう、と落ち着いた声が返ってくる。
落ち着いた、三十代位だろうか。おそらくはブランドものだろうスーツを何の気負いもなく着こなし嫌みのないところ、物腰、こりゃあやり手だな。と心の中で予想を立てる。あながち間違ってもいないだろう。この若さで一社を任されるのだ、末端の昇進とは違う。実力がないのはただの世襲くらいのものだ。(世襲だからといって、実力がないとは言い切れないが)
お待たせして申し訳ありません、と決まり文句を口にしながら、どうにも自分に視線が注がれているような気がしてちらりと社長へ視線を走らせる。
と、若草色の瞳と目があった。
(あ、れ?)
なんだか、デジャウ、のような。
不思議な感覚に襲われてしばし、ぶしつけにもその瞳を凝視してしまって、苦笑の気配に我に戻る。仕事中だということを一瞬、忘れていた。
「すみません」
あわてて詫びを入れると、構わないよ、と柔らかい言葉。
もうしばらくでまいりますのでお待ちください。とマニュアル通りのセリフとともに退室しようとしたときに、ふと、その社長に呼び止められた。
何だろう、と思って振り返って、またデジャウ。
ユーリはあまりこういったお茶出しを担当することは少ないので、対応をした相手のことならば覚えているはずなのだ。そして、今までにこの人に会ったことはない、ないはず...なのに。
どうしてだろうか。そんなことを思っていると、なぜか席から立ち上がった社長がユーリにかなり密着してくる...え?え?とユーリにしては珍しく、動揺のせいで硬直してしまう。
そうこうしている間に、なぜか耳元ぎりぎりまでに、端正な顔が近付いてきて同じ男であるにも関わらず一瞬どきりと心臓が音を立てた。
「おっさん、甘いもの苦手だからさぁ。これは青年に、ね」
(!!!!!)
まさか、そんな。
普段から動揺が外に出ないといわれているユーリであるのに、この時ばかりはびしりと身体が硬直してしまった。
手の中には、いくつかの茶菓子。
入れ替わりに対応をする此方の専務が来たために確認する暇はなかったけれど、取引先の社長の、耳に残る声と口調は、間違いなく朝に聞くあの声で。
(...しゃ、社長があんな安マンション住むなよ!!)
心の中でレイヴンに叫びながら、帰ったら文句を言ってやろうときっちりと誓って。
とりあえずイライラをおさめるために、アーモンドチョコを一つ、口の中に放り込んだ。
日替わりマンディ
管理人が会社のことがよくわからないので、どうにもただの妄想なんですが。
ユーリにお茶出ししてもらったら、すっごい大事に飲む!!とかそんな関係ないことばかり考えていました。
某旦那さまの、「事務員ユーリと社長おっさん」という素敵設定をこっそりと使わせていただきました。マンション一緒なのは管理人の趣味です(色々待ちなさい)
お試しのつもりで書いたので、あまりオチもなにもありませんが、まぁ気にしないでくださいませ。
2009/7/20up