*ちょっと特殊設定なので、注意書き。
・ED後のお話ですが、ユーリが星食み撃破のときのなんやかんやで何故か魔術(マナ仕様)が使えるようになってしまったとかそんなお話。
・でも、訓練していないし感覚で使っているので、力の限り大技かつ大味かつ大雑把。本人も、「別に使えなくてもこまんねーし、勉強なんて今更やってられっか」状態なので、時折暴発させてクレーターを作りかけ、そのたびにまっさおになったおさんとかに説教されてます、正座で。(ここポイント)
・ギャグです、多分。そしてレイユリです。
・若干ユーリが淡白です。

そんなんでも読んでやるよと言う心の広い方のみどうぞ。




備えあればロケットランチャー撃ち放題


ユーリは、正座させられていた。
一応、悪いとは思っていたので、大人しく正座していた。
足が痛くなるので、一応ベッドの上に正座しているわけだが、それでもなれない体勢は痛い。テルカ・リュミレースの殆どの地方ではユウマンジュのようにイグサを編んで作るタタミなるような文化は存在しないので、そもそも靴を脱ぐのは寝るときだけ。つまりこの正座なる体勢などほとんど経験がないのだから、結構な苦行でもある。
そして、目の前で顔を青くしながら青筋を立てるという器用な行為をしてのけている仲間...かつ分類としては恋人...のレイヴンを、おもしれーなぁ相変わらずとか、本人に聞かせたら正座の時間を一時間は延長させられそうな(もちろん言わない、そんなことは)思考回路を展開していた。
「...さぁて青年、まず自分が何をしたのか言ってみましょうか」
少し落ち着いたのだろう、それでも若干震えている声が気にかかるところだが、一応説教を喰らっていると理解しているユーリは素直に...ついでに大分棒読みで答える。
「キャラバンに襲い掛かってた魔物を吹っ飛ばした」
端的である。そして事実でありある意味で正解でもある。
だが、またひとつ増えたレイヴンの額の青筋を見るに、ある意味で不正解であるようだ。
ひくりひくりと引きつっている口元は、普段のおちゃらけた性格(のように見せかけている)の彼からは想像もできないくらいのもの。
あぁそーいう表情もいいなぁとか少しばかりバカップルな思考展開に飛びそうになったユーリを現実に戻したのは、矢張りレイヴンの言葉だった。
「ええそうねぇ正しいわ。...でもね、青年、少しばかり言葉が足りないじゃない?どうやって吹っ飛ばしたのかしらー」
これも答えは至極簡単である。分からないわけがない。やったのはユーリだ。
ユーリは矢張り、少しばかり棒読みで返答した。
「どかーんと、こないだリタに教わったメテオスオームとやらで」
ここで、レイヴンの顔がドアップになり、半ば本気で肩をつかまれて、いてーよと返すが聞こえてはいないらしい。がっくんがっくん揺さぶられるのも、首が痛いのでできれば勘弁願いたいものだが。
若干、レイヴンの目が涙目なのは気のせいだろうか。
「ねぇそれやめてって皆に言われてたわよね?まだ青年制御できてないんだからやめなさいっていわれてたわよね?!リタッちのも十分凶悪だったけど、この場合大は小を兼ねるとかそんなこたぁないんだからね?!...近くに町がなくて本当によかったわよ。結界ないところであんなもの炸裂したら、間違いなくひとつ消し飛ぶ」
「いやー、まさかあそこまでいくとは思わなかったぞ俺も」
正直な感想を漏らしたというのに、ガッつりと睨みつけられてしまった。
「それって前にも同じこと言ってたわよねっ!!挙句の果てそれで精神力使い果たして自分で作ったクレーターに頭から突っ込みかけた青年を見たときのおっさんの気持ち、分かる?!」
耳元で怒鳴られるのは非常にやめて欲しい。が、流石に今回ばかりはユーリも反省していたので眉をほんの少し吊り上げるだけで耐えておいた。
すでに、看病してくれていたエステルやカロル、それに後でやってきたリタやジュディスからも十分こってりに絞られたし、ラピードにも無言で睨まれたのだ。
...つまるところ、規模の大きすぎる魔物の群れを何とかするために、キャラバン隊を後ろに庇って、一番先頭でメテオスオームを炸裂されたはいいものの、どう贔屓目にみても十メートル以上の深さのあるクレーターをこさえた上に、魔力の使いすぎで頭からそこに突っ込みかけた。以上が今回のあらましである。
(まぁ、この術の威力に関しては、どうやら旅の途中で回収していた、最近ではもっぱら愛剣になっている魔装備とやらのせいでもあるらしいという噂がないでもないが。)
しかも、一番先頭だったユーリゆえ、後ろで怪我をしていたキャラバン隊の手当てをしていたエステルはもちろん、ユーリの術に巻き込まれないように半ば本能的に下がっていた面々が一気に真っ青になったのは言うまでもない。とっさにレイヴンがリタの武器(鎖)を引っつかんでユーリを引っ掛けて、自由落下を食い止めなければ間違いなく、今頃あのクレーターはユーリの墓標であっただろう。なんとも景気のいい話だ。
その後はまぁ、錯乱したエステルがレイズデットレイズデットリザレクションリザレクションとリスキーリング片手に回復技オンパレードし続け(お陰で、周囲のキャラバン隊の怪我は全く持って完治していた、らしい)、カロルがユーリユーリと叫び、リタはあわあわして、ジュディスとラピードは珍しく脱力したそうだ。そうだ、というのはすでにそのときユーリの意識は失われていて、後からレイヴンから聞いた話であるからであるが。
「エステル嬢ちゃんに回復術教わっては練習で町ひとつ巻き込んで大回復して病院のベッドの空きを増やしてそのあと空いたそこに自分が入って見たり、リタッちに教わっては毎度最大威力でぶっぱなしてやっぱりぶっ倒れてみたり、術禁止令出されたからってこっそりおっさんの術見て真似しようとして川凍らせてみたり。...別に青年術使いになりたいわけじゃないでしょーに、どーしてそう無茶ばっかりするわけ!」
「あー...そうだな。流石に今回は反省してる、悪かった」
素直に頭を下げたというのに、今回は未だレイヴンの怒りはさめていないらしい。
確かに後一歩であわやユーリは死ぬところだったわけだし、毎度なれない術を無理して使うなと口をすっぱくして言われていた手前、まぁこの怒りの元も分からんでもないのだが。
「...あー、なんつーかだな。星食みのあとから...」
このままでは本当にこじれそうなので、ユーリは頭をぽりぽりとかきながら、白状することにした。
何か感じるものがあったのだろう、揺さぶる手を止めて此方を見てくるレイヴンに苦笑しながら、ちょっとした出来事のような気軽さで続ける。
「ほら、俺は前は術なんざ使えなかっただろ?で、星食みおっぱらった後から急に使えるようになった。のはまぁいいんだが...あー、適度に発散しておかないとどーやら暴走しそうなかんじでな。でもま、制御できないから毎度こんなんなんだが」
リタが言うには、ユーリの周りにマナが集まりやすくなっているとのことではあった。
ユーリも別に今更後衛になりたいわけでもなし、というか力の限り前衛が向いていると断言できるので出来れば使いたくないのだが、元から術師でなかったが故に、うっかりこぼれそうになる魔力を抑えるやり方がわからないのでたまーに使うようにしていたのだ。で、そのたびに真っ青なレイヴンにベッドの上で説教を喰らうというのが定着してしまったわけだが。
今日の夕飯コロッケらしいぞ。という気軽さでとんでもないことを白状されたレイヴンといえば、口を金魚のようにぱくぱくとさせて言葉にもならないらしい。
とりあえず、ユーリはとんでもなくイイ笑顔で、ぽんとレイヴンの肩に手を乗せる。
「ま、頑張れおっさん」

「おっさんの心臓が持たないわよそれはぁああああああああっ!!!!!」

かくして、半ば強制的にユーリ専属護衛隊長に任命されてしまったレイヴンの雄たけびは、むなしくオルニオンの空に響き渡るのであった。
ちなみに、山火事を消そうとしてあわやスプラッシュの水におぼれかけたユーリを救出したレイヴンが、それ以後「初級魔術制御講座」なる本を片手に、逃げ回るユーリを追いかけ始めるのはあと半月後のお話である。





あー、すいません。私おっさん苦労人にさせたいらしい。
術を使うユーリもいいと思う、けどぜったい制御できないと思う。
2009/8/9up