愛しの旦那様のところにお邪魔して、二人でドライブしているときに盛り上がったネタのうちのひとつ(笑)
とりあえず、鳥さんは美声すぎるとおもうんだがいかがなものか。声がエロいよっ!!
現代パロで、おっさんとユーリが一緒にバイク乗っていたらいいよねというシチュエーション妄想(暴走?)から生まれたお話なので、描きたいシーンだけ描きます。
それでも宜しい方、どうぞ。
風を切る感覚が楽しい、気持ちいい、とか。
何処までも続く地平線を飛ばすのが、いいのだ、とか。
そんな、誘い文句に何度も何度も断り続けてきた其れをつい承諾してしまったのは、結局のところ自分が黒髪の、黒猫のように気まぐれで誇り高い青年にとても甘い自覚があるからか。
それとも、自分を置いて時折一人で行ってしまう彼が少しばかり憎らしかったからか。
今となっては、そんなことはどうでもいい、とレイヴンは思っていた。
男二人で、一体これは何百ccだ、というかどれだけチューンナップしているんだ、と突っ込みたい彼の愛車にタンデムして、よーく捕まってろよ?と微妙に不穏なセリフを吐かれたのがつい十数分前、その間の気持ちのいい直線の道は、確かにレイヴンもなるほど素直に楽しんだ。
彼の愛車は、彼の持ち物らしく黒と少しのシルバーで統一された、どちらかというとごついというよりも日本刀のような流線美を持つ車体で、いつも欠かさずこれを手入れしている黒髪の青年が自慢するものだから、そう、すてきねぇと言えばすこしはにかんで嬉しそうに笑った(ああ、何て可愛い。この顔を見ているのが自分だけだという優越感も存在するが)。
正直、レイヴンは二輪車の免許は持っていないし(もちろん、普通自動車であれば持っている。これがなければ生活できない)、どうにも体を無防備に晒しすぎる二輪車と言う乗り物にいいイメージは持っていなかったものだから、実のところ彼にもあまり乗って欲しくはなかったのだが、嬉々として説明をする姿を見てしまえばそうもいえない。繰り返しではあるが、レイヴンはこの青年に力の限り甘い自信があったからだ。
しかも、「たまにはおっさんも一緒にいかねぇか?...峠の景色、結構いいんだぜ?」と、彼らしいにやりと唇の端を吊り上げた笑いで誘われれば二つ返事でOKしてしまうのは仕方がないだろう。だって、彼ときたらだれかれ構わずフェロモンを撒き散らし(例えば彼の幼馴染から、ついでにV系ストーカーまで。やけに男が多い気がするのはこの際ご愛嬌だ)、そのくせヒトからの好意には大変疎くて飄々と交わすくせに、自分にだけこうして声をかけてくれたのかと思うともう、年甲斐もなくはしゃいでしまったのだってレイヴンが悪いわけではない(と思いたい。)。
「青年青年青年ちょっとちょっとちょっと速い怖い倒しすぎ倒しすぎ地面見える見える見えるーっ!!!!!!!」
いや確かにおっさんはしゃぎました。青年の腰に抱きつけるなぁとかちょっと思いました。だからって、これはない。
大切なことだからもう一度言おう、正直、ない。
先に言っておけば、世界の男の全員が絶叫系大好きであるわけがない。
男は度胸よねなんて言っては見るものの、怖いものは怖い。そんなの、自分の努力でどうしようとかそういう範囲はただのやせ我慢であって大丈夫ではないのだ。
直線で、風を切って走っているときに、ふとメーターに向けた目を逸らした事実は認めよう。存外安全運転である自分が、高速道路でも出さないような速度であったような気がしたのは目の錯覚と言うことにしてその後務めてメーターに視線をやらないようにしたことは認めよう。だからって。
「あー?きこえねーよ、おっさん」
のんびりと、常と同じ余裕の口ぶりで(否、実際余裕なのだろう。彼は大変自然体である。もしかしたら、ぎゅうぎゅうと自分にしがみ付かれて苦笑はしているかもしれないが)、言ってきたユーリの声はレイヴンに届いた。何せ、人間の耳は前方の音を拾うように出来ているのだから仕方がない。それがよかったのか悪かったのか、レイヴンにはいまいち判断がつかないが。
そんな人体の構造上聞こえないのは分かっているがレイヴンは尚叫ばずにはいられなかった。もしかしたら若干涙が出ているかもしれないとかそんなことを考えている余裕はない。断じてない。
「ユーリ君!!山道は攻めなくていいから!!普通に走ってせめてアウトインコースとか地面にすれすれになるまで倒れるのはヤメテー!!!!!」
とりあえず、解説を加えておけば、原付程度を乗っている人間であれば普通に二輪車に同乗することはさして難しい話でもないが、意外とカーブのところは怖いものがあるのだ。一般道ですらそうなのだから、現在のこの峠道を何の情け容赦もなくすっ飛ばしていく青年...ユーリの後ろにぶら下がっている(乗っている、というよりもしがみ付いているが正しいので)レイヴンにしてみれば、せめて車にして欲しかった...と呟きたくもなろう物だ。(ちなみに、後日うっかりと呟いて、助手席で失神しかけるのはまた別の日のお話)
正直、景色を楽しむどころのはなしではない。もうすぐ秋にさしかかる日の大分気持ちのいい晴れの日だけれどもそんなのはどうでもいい。現在レイヴンの心を占拠しているのは紛れもなく七割が恐怖で、三割はそれでもユーリと出かけられることに対するこっそりとした喜び。ちなみに、毎度この三割が邪魔をして結局の七割を喰らう羽目になっていることには本人は気づいていない。
恐怖に任せて、ユーリの傾く方向に逆らえば大事故につながりかねないことは知識として持っていたので、その点では恐怖を押さえつけて最低限の努力は継続してはいるが、それだけで、もうすでに体力も精神力もエンプティ、ユーリの腰に抱きついていたって回復する速度よりもざくざく削られている速度のほうが上回ってそろそろ破産寸前。
「ほら、おっさん見ろよ。そろそろ着くぜー」
しかし、前のほうから聞こえてくる声はこれ以上なくのんびりとして、ぎゅうぎゅうしがみ付く(しまいには目もつぶりかけた)レイヴンに、なんとも無茶な要求を...
(ん?)
今、彼はなんと言っただろうか。
恐る恐る目を開けば、いつの間にかバイクの角度は常識範囲に納まり、ついでに速度も緩やかになって、駐車場だろう場所にするりとユーリの愛車が滑り込む。
とても景色がいいのに、思いのほか知られていないため、また平日と言うこともあってか峠の駐車場は殆ど人も居らず、レイヴンはへろへろとバイクを降りる自分を誰かに見られなかったことを心底居るかも分からない神に感謝したい気持ちで一杯になった。
「おいおい、おっさん、大丈夫か?」
「...残念ながら、あまり大丈夫じゃ、ないわ、ねぇ」
苦笑しながら此方に手を差し出したユーリのそれを遠慮なく掴んで(乗りなれない二輪車は、同乗するだけでも意外と足の筋肉を使うのだ。一時間以上もがっちがちの体勢だったために、中々うまく足が動かない)、冗談っぽく出そうと思った声は自分でもびっくりとするほどに弱弱しくて、流石のユーリも目を丸くしたようだ。
あ、青年、そういう顔すると幼くなるわね。
こんなときでも、青年の一挙一動に見惚れてしまう自分はどれだけ彼にぞっこんなのだろうか。(末期の思考回路かもしれない)
何秒間か停止してから、ユーリはまた顔に苦笑を浮かべて、山を見渡せる展望台にあるベンチにレイヴンを座らせると、ちょっと飲み物買って来るわとすぐに踵を返した。フルフェイスのメットと、皮のジャケットに隠されていた長い黒髪が日にすけるのがどうにも目を離せなくて、レイヴンはユーリが見せたいと言ってくれた景色よりもそちらに視線をやってしまう自分に苦笑した。
「ほれ、おっさんコーヒーな」
「ユーリ君は...あらま、可愛い。ソフトクリームじゃないの」
「ここのは美味いんだよ、朝取れた卵と牛乳使ってるからな...っていうか、おっさんなんでわざわざ景色に背中向けてんだよ、意味ないだろ見にきたのに」
「んー、おっさん、景色もいいけどユーリ君見てたかったから」
「はいはい。...ほら、結構上ってきただろ?」
甘いものが苦手な自分のために、缶コーヒーを買ってきてくれたユーリのもう片方の手にはソフトクリーム。存外甘党な彼は、嬉しそうに其れを頬張った。
こっそりとアタックをかけたセリフはさらりと流されて、ユーリの視線はレイヴンの後ろ...つまり、この旅(というほどの距離ではないが)の目的であるユーリのお気に入りの景色。
あえて背中を向けて座っていた体勢をくるりとひっくり返して、ユーリと並んでその景色に目をやり、コーヒーに口をつければ成る程、先ほどの色んな意味での恐怖が一瞬消えるほどには鮮やかな山の光景。
「...こりゃ、いいわね」
そう、無意識に唸るほどには、目を奪われるもので。
レイヴンのその言葉に、横の青年がにやりと笑む気配を感じた。
暫く、二人でソフトクリームと、そして缶コーヒーを口にしながら、言葉を交わすこともなくその景色を見つめる。
山に吹く風は夏の匂いと秋の香りを含んでどこか甘く、首筋をなでるそれは少しばかり強いけれどもいっそ心地いい。
「だろ?ま、そんなに頻繁にゃ来れないが、結構俺の気に入りの場所」
「んー、確かにいいわね。たまにはこういうところも」
「ついでに言えば向こうの店のプリンも美味い」
「...おっさんは遠慮しとくわ」
「峠下ったところに、美味い釜焼きピザの店があるから、そこで昼飯にするか」
「あ、いいわね。おっさんおなかぺこぺこよ」
立ち上がって缶を投げれば、からんとゴミ箱にぶつかって音を立てた其れはやがてカゴの中に納まり。
さらりと背中に黒髪を揺らした青年の後ろに続くようにして立ち上がれば、また強い風がするりとレイヴンの首筋をなぜた。
「おら、行くぞおっさん」
「はいはい、あんちゃんちょっと、もう少し安全運転でお願いね。おっさん寿命縮んじゃうから」
この際、色々とした文句は飲み込んだ。
存外不器用なこの青年が、気に入りの場所に自分をつれて来てくれたそのわけに、少しだけ自惚れておきたいから。
遅咲きの恋ノ花
ユリレイとは言いません。それも其れで好きですが、うちは基本ユーリは右側固定なんです。なのて、まぁレイユリレイくらいでしょうか。おっさん乙女なのは妄想の暴走の結果です。
フレユリは色々アレなネタも浮かんできますが、レイユリは純愛系だと信じてやまない私の暴走。
2009.8.30up