本編にあわせているようで居て、全くあわせていません。
パラレルです。どうしてもクリスマスネタがやりたかった。
なのに遠慮なくシリアスです、空気嫁私(ヲイ)
先に言っておきますが、死ネタ(のようなもの)です。苦手な方、回避どうぞ。
あと、宗教関連敏感な方も回避ください。すいません、そこを叩かれてしまうと...(苦笑)














クリスマス・キャロル・レクイエム




クリスマスキャロルが聞こえる。
子供達だろうか。ハロウィンを終えて、そうして聖歌の練習に珍しくまじめに精を出す彼らは、それでももうすぐ訪れるクリスマスに浮き足立ってしまうのだろう。歌声には喜びと楽しさを含んだ其れを感じて、回りの人々の顔を思わず笑顔にさせている。
クリスマスは、主の聖なる生誕の日。
その前日、まさに乙女マリアが宿を取る事もできず借りた納屋で、父ヨセフに見守られ、キリストをこの世に産み落とすそのとき。静粛に、そして神聖に、例え子供であろうともその日を心を込めて祝うのだ。
十一月に入った頃は、今年の冬はこんなものかと思っていたけれども、もう吐く息も白いし、耳も真っ赤だ。...これからは、マフラーくらいは巻いたほうがいいだろうなとフレンはぼんやりと思う。
ねぇ、君もそう思うだろう?
問いかけようとして、自分の隣には誰も居ないことに気づいた。
...否、一人ではない。少し視線を落とせば、賢い飼い犬であるラピードが此方を見上げている。...どうやら、思っていることは読まれているらしい。常はクールな彼だけれども、フレンに甘えるように頬を摺り寄せてくれた。
その思いやりが、どこか胸に詰まって仕方がない。
ここにはいない、もう一人の飼い主のことをラピードも思っているのだろう。どこかラピード自身にも元気が無い様に思われた。
しゃがみこんだ途端に、鼻の奥がつんとして、思わず目頭が熱くなる。
泣いちゃ駄目だ。また   に笑われてしまう。
じわりと目じりに溜まりかけた水滴を、べろりと、少しざらついたラピードの舌が攫ってゆく。
...泣くな。
   が言えない言葉を、まるで代弁してくれているかのようだ。
それが辛くて、また少し涙が出かけたけれども、ぐっとこらえる。...辛いのは、自分なんかじゃない。
世間の誰もが、老いも若きも、このときばかりは貴族も平民も、皆がクリスマスを心待ちにしている。騎士団でも、家族を持つものには優先的にこのときは休暇が出される。そうして、世界中が主の生誕を祝うのだ。
フレンだって、騎士団に入団してクリスマスに休暇を取ることはなくなったけれども、それでも城の中にある礼拝堂で行われる簡易的なミサには毎年欠かさず参加していた。
ザーフィアスに戻ってきてからは、見回りを兼ねて下町が皆で行うミサとその後の祭りのような食事会にも顔を出していた。面倒くさそうな顔をしながらも、子供達のために腕を振るう   に会うのが、何となくワクワクとした。
世界にエアルが満ちて、そして星食みが現れて。
二年前のクリスマスは、旅の途中だった。
凛々の明星のメンバーと、そしてエステリーゼと、パティと、自分と。
野営の焚き火の周りで、そのときばかりは誰もが祈りを捧げ、主への感謝を捧げた。
   もまた、常の彼らしくなく神妙に...否、誰よりも長く祈っているように見えた。
去年のクリスマスは、それにあわせて   達が下町に戻ってきてくれていて。
普段は酒を飲まない   がレイヴンに乗せられて、そうしてシャンパンで顔を真っ赤にしていた記憶がある。エステリーゼもお忍びで参加して、楽しそうに笑っていた。
星食みを打ち砕き、そして魔導器のない世界で、それでも一段と明るく輝く星空に一年の糧の感謝を捧げた。
例え、遠い空の下離れていても、どこかで祈りでつながっている。
そう、思って、いた。
思い込んで、いた。
今年は本当に、クリスマスが来なければいいと心からフレンは願っていた。...凛々の明星の面々も同じだろう。...エステリーゼは目を泣き腫らし、最近ではやつれてしまって痛々しい。
ジュディスやレイヴンなどはまだ顔に出さないけれども、時折疲れたような表情を見るような気がするのは、彼らもまた   のことを思っているからだろう。
「ラピード、会いに行こうか。...今日は寒いから、宿の女将さんにシチューを貰っていこう。それに作りたてのカスタードも。...甘いものがないと、拗ねるだろうからね」
「わふぅ...」
ぺたん、と尻尾を地面にたらしてしまったラピードの首を撫でてやってから、フレンは立ち上がった。
まずは、箒星に行って女将さんに飛び切りのシチューを貰おう。そして、クリスマスの練習用に作っているだろうカスタードを分けてもらわなくては。


「諸人こぞりて、迎えまつれ。久しく待ちにし、主は来ませり」
目的の場所へ、ラピードを伴って向かう途中。
決して人通りも灯りも多くないそこで、けれどもどこか存在感を放って見えるクリティアの美女がそう歌いかけてきて、思わずフレンの口は勝手に動いていた。
「ジュディス」
そう名前を呼べば、もう真冬だというのにもかかわらず相変わらずの、美麗な肉体を惜しむところなく晒した彼女は、魅惑的な唇を少しだけ吊り上げて見せる。
「彼のところに行くのかしら」
「...ああ。シチューとカスタードを差し入れにね。...あそこは、寒いだろうから」
「あと一週間よね。...ねぇ、例えば私がバウルを連れてあそこから彼を奪い返したら、貴方は諦めてくれるのかしら、騎士団長様」
どこか、表情の読めない彼女の、けれども声に真剣さを感じてフレンは、ああ君は愛されているんだね。とここにはいない「彼」を思う。...少しくらい彼も、自分が心配されて、そして愛されていることを知ってくれていればと願わずにはいられない。
「...きっと、   がそれを選ばない。...どうにも、頑固だからね。こちらの言うことなんか聞いちゃくれないよ」
「...そう、そうだったわね。」
何度もされた問答。結局、世界の人の全ての命の安全を背負う義務のある帝国に身を置くフレンにとっては、感情がどうあれ友人の一人すら救えない。
何かのために、一人を切り捨てるようなやり方など、絶対に、したくないのに。
俺は別にもう腹は括ってるからな、今更ごねねぇよ。そのかわり、クリスマスまでは待ってくれ。
それが、珍しい彼の、我侭とも言えない我侭だった。
もし、彼が頷いてさえくれれば、フレンだってもしかしたら、彼女が言うとおりバウルが彼を攫うのを目を瞑って見逃したかもしれない。けれども、彼自身が決して其れを望まなかった。
カロルや、パティや、エステルが目に涙をためて説得しても。
ジュディスや、レイヴンや、リタが言葉を尽くしても。
何より彼が、其れを拒んだのだ。逃げることはしない。罪はあがなうべきだ。と。
彼は、子供達の多い仲間の一行に、もう来るな。と告げた。
会えば、別れが辛くなるだけだから。だからくるな、と。

人の身には、有り得ないことのはずだった。
けれども、中心で星食みに立ち向かった影響か、それともそういった体質の持ち主だったのか。
彼の体内には、歪な、聖核もどきのようなものが出来上がってしまった。
エンテレケイア種ではない、ただの人間の身体に、濃密なエアルの塊が埋め込まれている。
...それは、彼が意識していなくても、段々と周囲の自然などに影響をもたらすようになってしまった。...そして、悪いことは重なった。気づかないうちにエステリーゼに会ったときに、エアルに敏感だった彼女が倒れてしまったのだ。
それは、折も悪く城の中。多くに目撃されてしまい、そしてあれよあれよ、原因が彼だと知れるや、ここぞとばかりに貴族達の攻撃の的が彼に集中してしまった。
エアルはマナに昇華されつつある。けれどもそれはいまだ磐石ではない。
世界に少しずつ残っているエアルを吸い込み続け、そしていつか星食みとなるのではないか。
人間は目に見えるものを怖がる。あの、気持ちの悪い空がまたくるかもしれない。それだけで人の恐怖を煽るには十分で。
皇帝ですらも、もうこうなってしまえば評議会を止められなかった。副帝たるエステリーゼが必死に訴えても無駄。...手を取り合って復興を目指す世界に、波どころか津波を起こすかもしれない不安要素を、放置するわけには行かない。
そして止めが、アスピオの研究者達の検査結果...緩やかに、   が星食みへと変わりつつあるという事実。
彼の極刑を告げた、ヨーデルの表情をフレンはきっと生涯忘れられない。
そして、フレンから告げられたその言葉を、牢の中で聞いた彼の、穏やかな瞳を一生忘れない。
彼の中で今でも歪に成長を続ける聖核は、寄り代の身体ごと灰にして緩やかに世界に溶け込ませたほうがいい。
そうでなければ...ただ寄り代を壊したところで、歪な聖核が暴走を始め第二の星食みを導くだけかもしれない。だからせめて、寄り代が人である、うちに。
そう、真っ赤に泣きはらした目で、それでも自らの役目を忘れずに告げたリタの頭を、ぽんと叩いて彼は言った。
『ありがとな』
それでも、かつて彼は世界を救った。それであるのに彼の死を止めることができない。
せめて死の直前まで、普通に生活をさせてやりたいというヨーデルの気持ちに、けれども彼は首を横に振った。
『あんまし出歩くと、誰に影響出すかもわかんねぇ。...それに、俺は湿っぽいのは性に合わないしな』
だから彼は、身分ある者の幽閉用に作られ、使われなくなって久しかった離れの塔で、今もただクリスマスを待っている。

「...ごめんなさい。シチューが冷めちゃうわね。彼によろしく伝えて。いつでもさらいにいくからって」
「...ああ、伝えるよ」
彼女には、それが出来ない。
星食みから世界を救うべく立ち回ってきた彼女には、本当にはそんなことは出来ない。
それでも...それでも。
彼女の、本心であっただろうから。
恐らく、もう彼の前に姿を見せることはないであろう彼女の後姿を、敬意を込めて、暫く見送った。




あっはっはっはっは、やっちまいました。
まだ続きます。すいません、中途半端な連載もどきばかり放置して。
真夜中に急に描きたくなった、クリスマスのような魔女裁判のようなネタ。
一応、フレユリです。
2009/12/6up