*うちのユーリさんはおっとこまえ
*レイユリ風味?
*凝り性ユーリさん
*ナチュラルに♀ユーリですご注意を
「ねぇユーリ君?」
「んだよ、おっさん」
「最近やたらとショートケーキだのクレープだのシャーベットだのプリンだの作るのは、もしかしなくともおっさんへの嫌がらせかしら?」
実のところ凝り性であるユーリ筆頭に、世界中どこでも(時に、ダンジョンであろうとも)出現し消えてゆくワンダーシェフという住所不定の謎人間から受け取るレシピを極め、新しい料理を生み出そうという流れになっていることを、別段レイヴンは否定するつもりは、ない。
特にレイヴンの好物であるサバミソなどは手に入れたレシピから家庭料理マスターのジュディスが考案したものだ。其れを考えれば恩恵を受けていると断言する事も出来る。
時には立ち寄った先の宿屋や食堂の小母さんの料理を覚えておいたり、また直接聞き込みをするなどして単なるカレーやハンバーグなどであろうとも改良に余念がないその姿はむしろ感心すべきところであって、食べられればいいじゃないかなどと無礼な思考を持つつもりもない。美味しいご飯いいものだ。
旅においてはやはり食事と言うのは重要なもので欠かすことなどできないし、ただ栄養を取るだけではなく様々なレパートリーを持つことにより野営というストレスを軽減するという効果があるものなのだから、むしろ歓迎すべきものだとは思っている。
見た目はクールビューティ、中身は力一杯(それはもう、どこまで強調しても足りないほどに)男前のユーリだが、その中身に反してなかなかの料理上手であり、また凝り性でもあるゆえ率先して料理当番を引き受けることが多く。
普段料理など自分では行わないエステル(それはそうだ。彼女は貴族の人間であり、料理は普通お抱えのシェフがやるものである)やリタ(彼女の場合、料理は食べられて生命が維持できればそれで良いという若干危ない思考の持ち主なので、買ってきて食べることが多かったのだろう)などに比べてかなりの腕を持っている事もあって、自然野営時の役割分担として、テントなどの組み立て、水汲み、枝を拾いに行くなどの役割は持ちまわりだが、簡易かまどの前にはすんなりとユーリが納まっている。
本人も文句を言わないところを見ると、恐らくは料理をすることが好きなのだろう。
本日のメニューはお子様達のリクエストによるカレーであるらしく、味を見ながらスパイスを足してゆくその姿は正直新妻のようで大変に眼福ものではあったのだが(調理中は髪の毛が邪魔だということでポニーテールにしており、白いうなじがまぶしい)、本日の水汲み係兼調理補助に割り当たったレイヴンは、結構己にとっては死活問題でもある疑問をぶつけずにはいられなかった。
「あー...?ちょ、おっさん味見て。多分いいと思うんだけど」
が、ユーリはその疑問には答えることなく、小皿によそったほとんど出来上がりに近いカレーをぐいとレイヴンに突き出してきた。
思わず受け取ってしまってからそれを口にして、きちんとスパイス調合から行っている故の味の深さに思わず感嘆の声を上げてしまう。
先ほどから漂ってきている香りから、もちろん味がいいという予想はついていたが、口に含むことによってそれは確信に変わる。(某誰かさんの料理のように、見た目も香りも問題がないのに何か人間の料理を逸脱してしまっている例外があるが、ユーリのものはそれには当てはまらない。)
「ユーリ君、おっさんの嫁に来ない?」
「...身長的に俺がタキシードでおっさんドレスな」
結構本気が混じっていたセリフに淡々と返されて、半ば本気でがっくりと肩を落としたレイヴンを他所に、後は少し煮詰めればいいだろうと結論をだしたユーリはすでにポニーテールを下ろして調理器具の片付けに入っている。
「...大体の主食レシピはメシ時に作ればいいから熟練度も上がるんだけどさ」
自主的に、使った用具などの片づけを手伝っていたレイヴンの横で、いきなりユーリが話し出すものだから何事かと横を向けば、特にこちらに視線を向ける事もなく汚れた器具をぼろ布でぬぐってゆくユーリの姿。
一瞬何の話かと思ってしばらく、自分が始めに発した問いへの答えだと気づいてレイヴンは、片付けの手を止めずに耳を傾ける。
ユーリはレイヴンが手を止めたことには特に何も言わず、自身は手を動かしながら続けた。
「デザート系はさすがに、主食にゃあならねーし。でもやっぱ、ここまできたら全部極めたいっていうか?」
...なるほど。
つまりは、ユーリがスイーツ系のレシピを積極的にこなしていた理由と言うものは、彼女が食べたいというわけではなく(いや、それも少し...否、大分あるのだろうけれども)、むしろ料理修行の一環として成されていたわけだ。
「...ユーリ君の凝り性は十分理解いたしましたよ」
戦闘ごとに甘味を作られては悶絶せざるを得ない現状は正直辛いものがあったが、手に入れたレシピをことごとく極めたユーリのお陰で充実した食生活をおくらせてもらっている身としては、最早プロ根性ともいえるこだわりには、はいそうですかと頷くほかない。
それに、術師のリタやエステルは、こうして旅を続けていく中で、敵が強靭なものであればあるほどその精神力の消耗は大きくなってくる。其れを考えれば、精神力を回復する効果のある甘味と言うものは例えレイヴンが苦手とはいっても侮れるものではなく、ある意味仕方ないといえば仕方がない。
まぁ、幸い夕飯などに甘味が出ることはないので、ここはユーリが全てのレシピを極めるまでの我慢なのだろう。
疑問に対する返答を得たところで、大人しく各人を夕食の席に呼び集めるべくかまどの前を離れかけたレイヴンの背中に、思い出したようにユーリは声をかけてきた。至極楽しそうな口調でもって。
「ま、作るたびにおっさんが死ぬほど嫌そうな顔をするのが楽しいってのもあるな。かわいいよな、おっさん」
振り向けば、きらめくほどにいい笑顔の美女。
笑顔だけ切り取ってしまえば、額縁に入れて飾っておきたいほどのベストショットである。
そして、コレは間違いなくユーリの本心だろう。どこか頭の冷静な部分がそう分析するのを聞きながら。
(もしかして、マスターしても作り続ける気...?)
その天使ともいえるようなきらきらしい笑顔に。
レイヴンは、若干背中が冷えたような気が、した。
アイアン・シェフ
ブログからのサルベージ第二段。
矢張り向こうのは短いので、SSとSSSの中間くらいの長さになりますね。でも余り引き伸ばしてもおかしくなるので大人しく短めで収めて置きます。
私はユーリでのみ全料理マスターを行っていたので、当然おっさんが毎回甘味のたびにすごく嫌そうな表情をしていたのが妙に記憶に残っておりまして。
故に、こんな話になりました。でも基本的にうちのユーリさんはおっさんを(愛故に)苛めるのがお好きなようです(笑)
2009/4/19up