*例え武器魔導具付けていたところで斧を片手でくるくる回すのは無茶じゃないのかと言うありがちな突込みから生まれたお話。
*うちのユーリさんはデフォで戦闘大好き人間です。精進には余念がありません。
*そしてナチュラルにユーリは♀です






旅を続けていれば、当然武器と言うものも痛んだりしてくる。
勿論、鍛冶ギルド謹製の武器であれば、早々刃こぼれもないし、きちんとした手入れさえしていれば十分に使い続けられるものだけれども、やはり状況に応じてだったり、武器の買い替えと言うものは冒険を行うものたちにとっては必須ともいえる。...いつか、自分の手に合う唯一の品を見つけるまでは、ある種それも冒険だということができるかもしれない。
ほんの少し握りが太かったり、刃の長さが体に対して長すぎたり、またはその逆だったり...もちろんある程度修練を積めばどんな武器でも一応の使いこなしはできるものの、それでも武器ごとの使いやすさと言うものはかわってくる。なればこそ、多くの冒険者達が自分にとっての唯一の品を求める(冒険者のみならず、それは騎士にもいえることだろうが)のであろう。
世界のどこかには、使い込めば使い込むだけ、敵の怨念でも吸い込むのかどんどん殺傷能力が天井知らずに上がってゆくという危険な武具も存在すると聞くが、普通の武器にそんな能力は勿論存在しないので、とくに冒険を始めてからそこまで時間を経ていない若者達の間では、酒場などで武具談議に花が咲くのは珍しいことでもない。
また、武具屋の人間も武器を求める人間の希望に応じるべく様々な相談に応じるなど、とにかく皆、自分にあった武器を探すことはそのまま生死に直結する以上必須であるといえた。
しかし。もちろん、世の中には同じ武器を求めるにもあくなき探究心を人より余分に持ち合わせてしまった人種と言うものが存在する。
其れが何かといえば、つまり、最終目的を彼らと同じくしながらも、前者が例えば自らの得物を長剣と定め、そののちは段々種類を絞ってより自分に合ったものを探してゆく...というのに対し、そもそも武具の形状すらも飛び越えて様々な武器を追い求めてゆくタイプである。
そもそも武器というものはその形状で用途が変わってくるのだから、普通の人間は一度戦闘スタイルを決めてしまえばおいそれと其れを変えることは出来ない。故に、後者のタイプは希少であり、ともすれば器用貧乏にもなりかねないという危険性を含んでも居る。
だが、たまにそんな危険性すらも一足飛びに飛び越える才能を持つ人間と言うものは居るものである。
以下、そんな一種の才能を持った人間について述べることとしよう。

「カロル先生、これなんかどうだ?」
「え?どれどれ...あ、結構いいかも」
「私はこれかしらね...やっぱり、あの子には劣るけど、重心の位置が似てるから使いやすそうだわ」
世界を股にかける旅人...ギルドブレイブヴェスペリアの面々とその同行者たちは、冒険者の例に漏れず立ち寄った町で武器屋にきていた。
しかしなんというか、レイヴンはともかくとして、右から長身悩殺クリティア美女、どうみても貴族のご令嬢、まだ年端も行かない少年、見るからに学者然とした年若い少女、胸元全開フェロモン放出な姐さん、そしてトドメが犬という摩訶不思議パーティである。もちろんお仕事であるゆえ武器選びに付き合ってはいるものの、武器屋のオヤジさんの顔にありありと疑問符が浮かんでいたとてどうして責められようか。
見繕われた武器を手に取り、ためしに使ってみている(ただ見せられただけでは細かい使い勝手までは分からないというもの、そのため武器屋には奥に専用の施設が備えられていて、そこで振り回したり試し切りをしたりして武器の馴染み具合を確かめることが出来るのだ。)面々は、和気藹々と盛り上がりつつ、新しい武器の物色を行っていた。

「うーん...」
「どうした?お嬢さん」
パーティの中でも一番非力そうで大人しげな、まさに治癒術師といった雰囲気を持っている桃色の髪の少女が、いくつか並べられた武器を前に唸っていたので、武器屋のオヤジは即座にその隣にかけよった。
彼はプロだ。故に、少しでも武器に迷うお客さんが居たらその相談に乗るのは当たり前のことである。
彼女が並べていたのは、ロッドと、そして細身の剣。
女性に好まれるオーソドックスな種類のものだ。
「どちらがいいか、ちょっと決められなくて困っているんです」
術師といえども、丸腰でいれば襲ってくださいといっているようなものだ。多少の護身のためにも、武器は必須である。前衛でないからと、武器選びをおろそかにすることはもってのほかだというのがオヤジの理念であったため、オヤジは腕を組んで大仰に頷いて見せた。
「ロッドのほうが、術力を高める式が組み込まれているし、何よりこいつは鍛冶ギルド謹製の品だからな。柄のところで剣を受けたって傷一つつかねぇことは保障してやるよ」
「まぁ...それはすごいです!この先の宝玉のところに式が組み込まれているんです?」
さらさらの桃色の髪を揺らして顔を輝かせる少女は、目を丸くしてそっと、白い手袋に包まれた手を杖の先へと伸ばす...まるで貴族のお嬢様のようにか細い腕には女性向のはずのロッドすら少しばかり無骨に見えて、少しばかりほほえましい。
「そうだよ、お嬢さん。お嬢さんは見たところ術を使うようだし、剣も悪かないが、こっちのほうがあってるんじゃないかい?」
武器を扱って十数年と言うキャリアを生かしたアドバイスに、桃色の髪の少女は花が綻ぶように笑った。
「確かにそうですね。私、元々剣を使った護身術を習っていたんですけど、杖っていうのも使ってみると中々使い勝手がいいなって思ってたんです」
「それじゃなおさらだ。武器ってぇのは、自分に合ってるものをしっかり選ぶのが肝だからな」
「杖って大抵先のほうに重心が置いてありますから、遠心力効果で結構打撃力が期待できますよね」

...ん?

今、何かこんな可愛らしいお嬢さんの口からは決して出てはいけない言葉が聞こえたような気がする。
だが、即座にオヤジはそれを気のせいだと断定した。こんな可憐な少女が前衛でえっさほいさと杖をぶん回し、物理的に敵を殴り倒して排除している様子など全く想像もつかない...というか、想像もしたくない。
ありがとうございます、少し杖の中から選んでみます。と丁寧に頭を下げてきた少女にゆっくり選んでくれと声をかけて、なるべく足早にその場を去ると、親父は次に矢張り短剣を前に唸っていた黒髪の美女のところに足を向けた。
腕組みをして、小首を傾げているのは、まさに絶世の美女と言って過言ではないだろう長身の、さらりとした長い黒髪の女性である。
その横にはキセルを咥えた大型の犬が寄りそっており、その姿は凛々しく、一枚の絵になりそうだ。
「姐さん、何で悩んでるんだ?」
声をかけた此方に振り返ったその姿に一瞬目を奪われたオヤジの心境など気づいた様子もないその黒髪美女は、なんとも男らしいにかりとした笑みを浮かべて笑っていた


「アンタが使う短剣を探してるのかい?」
問えば、美女は首を横に振った。さらりと流れる黒髪が動いて、その艶やかさに思わず嘆息してしまう。旅をする女性に共通の悩みといえば肌荒れ髪の艶がなくなるなどだが、この女性においては例外だろうと思わせるほどのみずみずしさである。
「いや、ラピード...こいつのやつだよ。本人、この二本が気に入ったみてぇなんだけど、二本使うわけにゃいかないからな」
「...」
オヤジは一瞬フリーズした。勿論、軍用犬が居る以上(その嗅覚をもって敵を探索するものもいるが、彼らの多くは戦闘能力も有しているのだ)、犬が戦うということは多くはないが驚くべきことでもない。ということはこの女性は獣使いか何かだろうとあたりをつけたのだが、いかんせん犬が人間用の武器を使うなどとは前代未聞である。いかな武器屋家業に長く携わってきたオヤジとはいえ、そんな知識は流石に持ち合わせては居ない。
「わふっ」
犬が一声鳴いて、女性が少しばかりその犬を振り返った。
そして、再度オヤジのほうに顔を向ける。
「使いやすいのはそっちの、そう、刃渡りの長いほうなんだけど。柄のところの太さはもう一個のほうがいいんだってさ。...皮布かなんかで補強してもらうことって出来るか?」
「え?あ、ああ。勿論だよ。コレと同じくらいにすればいいんだな?じゃあうちの若いのにやらせておこう」
「悪ぃな。...良かったな、ラピード」
「わう!」
...ああそうだきっとこの人は獣使いだから相棒と意思伝達が出来るんだそうじゃないと犬語を完全に理解しているようにしか思えないまさかそんな有り得ないし。
再び現実逃避を行ったオヤジは、息子に短剣の柄の調節を言いつけた。受け取って去ってゆく息子になんとなく行かないでくれと声をかけたくなったが(オヤジの本能が何かを告げていたのだ)、お客を前に居なくなるわけにもいかないのでぐっとこらえて黒髪美女を振り返る。
「姐さんは?」
「嗚呼俺は、もう決めてるぜ。」
二カリと見せられた商品に、今度こそオヤジはめまいを覚えた。...何せ、細身で貴族もかくやと思われるほどの容姿を持っている美女が...よりにもよってこの店でも一番重量級の分類に入るごっつい戦斧を大変男らしく担ぎ上げているのだ。...そりゃあ、泣きたくもなるだろう。
しかも、結構これは使いやすいよな。とかいいながらくるんくるん間違いなく子供ほどの重量がある其れを片手で回転させ、宙に放り投げてはキャッチするという力技と言う名の曲芸までやって見せるのだ。
...正直、見なければ良かったと後悔した。
「ジュディに槍術も教わってっけど、今んところはこっちだな。アビシオン使っちまうと、つまんねーし」
オヤジにはあずかり知らぬところだが、この黒髪美女こそこのパーティにおける一番槍で、重戦車で、特攻隊長であった。故に、伝説の攻撃力天井知らずの某魔武器の破壊力が恐ろしくなってしまっていたりして、デフォルトでクオーターダメージを付けて使用しているのだが、もちろんそこまでは気づけるわけもない...そして、知らないほうが幸せであろう。無駄に精神的安寧を乱して寿命を縮める事もあるまい。
ぶん、と横に凪いだ一瞬後、オヤジの頬を強い風がかすめる。...武器魔導具を使っていたわけではない。彼女は正真正銘己の腕力のみで巨大な戦斧を振り回し、風を発生させたのだ。
オヤジは、この女性が闘技場都市においてそろそろ出入り禁止を喰らいそうな200人斬り常連者であることを知らない。例え敵が群がってこようとも、斧の一閃でぶちのめすのは朝飯前なのだが、いかんせん見た目とのギャップがありすぎてオヤジの想像力に拒否権を発動させていたのでオヤジは深く考えるのを止めていた。
「ま、やっぱ武器は使いやすい奴を選ばないとな」
非常にいい笑顔で言ってのけるその美女に、かろうじて首を縦に動かすことだけはできたオヤジのプロ根性は賞賛に値するだろう。

この後、各々の武器を新調した彼らを見送ってぱたりと倒れた親父に息子と奥さんが泡を食うことになるのだが、取りあえずは空ろな目で、きちんと会計までを済ませたオヤジに拍手を贈るべきだろう。



あくなき探究心




ブログのログから再録。どうにもギャグが好きなようです。
某再誕の物語の陣術師さんみたいに、純粋に打撃力がパーティナンバーワンで、「えい」とか気の抜けるような掛け声とは裏腹に与ダメージが半端ない術師が好きです(何の話だ)
2009.7.12up